2009年5月28日木曜日

ゴルの虜囚 56 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


6. 奴隷商ターゴとの邂逅(6)

 突然わたしははっとしました。その言葉を以前に聞いたことがあります。わたしのペントハウスでベッドに縛り付けられたとき、あの小さい男がわたしに触れると、背の高い男が厳しく怒って小さい男に言った言葉。そして小さいほうの男が顔の向きを変えました。
 ターゴが話す言語の何に良く知ったものがあるのかは、わたしを打ちのめしました。たった一言二言聞いたことがあるだけです。わたしを捕まえた人たちの対話はもっぱら英語だったので、全体から見て少なくとも、彼らの母国語は英語だと推察していました。でも、他の者たちに指示をする背の高い男のアクセントを思い起こしました。外国人として特徴あるアクセントのしゃべり方の英語でした。でもこの、遠く離れた世界で同じか似たようなアクセントを耳にしました。ただ、ここではアクセントではないのですけれど。ここでは自然な響きで、リズムも声の抑揚も、聞いたところ独立し、疑いもなく洗練された土着の言葉なのです。わたしは怖くなりました。この言語はわたしの耳には奇妙に聞こえるものの、不愉快でもありません。力強いけど、それ相当にしなやかで美しいのです。怖くなったけれど、勇気付けられもしました。ターゴはわたしの態度の違いに気付き、わたしのと意思の疎通になおいっそう努力しました。当然、それでも理解できませんでした。
 怖くなりました。捕獲者のボスとグループの他の人たちの言語だか言葉みたいだからです。逆に、勇気付けられもしました。同じ言葉を話すなら、わたしの世界に戻してくれる技術力も持っている人たちのはずです。
 でも信じがたくもありました。
 今気付けば、この男たちはわたしが持っていたようなピストルも、ライフルも、わたしを捕獲した人たちが持っていたような小型の武器でさえ、銀色の船の人たちが持っていたような銀色っぽい管や杖も、持っていません。さらに驚いたことに、もはやおかしいことに、脇に小さな剣を身につけていました。二人は背中に弓か何かのような、柄はないけどライフルみたいなのをつり革で吊っていました。他の四人はいわゆる槍を携えていました。やりは大きくて、湾曲したブロンズ色の矢尻が付いていました。重そうで、わたしには投げられそうにないものです。
 ターゴと呼ばれる男を除いては、チュニックを着ていて兜をつけていました。その人たちはより怖く感じます。兜の開いているところは、漠然とYの字を思わせました。左肩に、鞘に入った剣を吊っています。重厚なサンダルを履いていて、太い紐をひざまで編み上げていました。何人かは、ナイフのような小さいナイフも革のベルトに携えていました。ベルトに袋もつけていました。
 

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訳者の言い訳と解説

 結構長い間考えてもわからないところがあって、
mixiのあるコミュで教えていただきました。
教えてくださった方々、本当にありがとうございます。
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2009年5月17日日曜日

ゴルの虜囚 55 【CAPTIVE OF GOR】



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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


6. 奴隷商ターゴとの邂逅(5)

 いくらかじれったく感じながらも、少し辛抱して、さっき言ったことを繰り返しました。わかりやすいだろうと、はっきり、ゆっくり、話しました。
 男たちが掴んでいるわたしの手首を離して欲しいわ。
 ターゴに話し続け、わたしが陥っている窮地と要求を説明しようとしましたが、ターゴは無愛想でじれったげに何か言うだけでした。
 怒りにカッとしました。
 この男はわたしの話を聞く気がないんだわ。
 手首を引きましたが、二人の男は離してくれませんでした。
 それからターゴはわたしに話し始めましたが、何ひとつ理解できませんでした。ターゴは使用人に話すように鋭く話しました。このことにイラっとしました。
「言っていることがわからないわ」
わたしは冷ややかに言いました。
 ターゴはもどかしげに考え直しているようでした。わたしの声のトーンにはっとしたらしく、わたしを注意深く見つめ、わたしを誤解していると気付いたようでした。わたしに近づいてきて、声色は油っぽくご機嫌を取りのものでした。この小さな勝利に、わたしは気が晴れました。ターゴは今や優しくなり、へつらっているようでした。
 エリノア・ブリントンに礼儀正しく遇すれば良いのよ!
 でももちろんまだ、彼が言っていることはわかりません。
 けれども、何かターゴの言葉には良く知っている何かがありました。それが何なのかはわかりません。
 ターゴは、わたしが理解していないことを信じようとしない様子です。
 ついにはとてもゆっくり、一言一言、とてもはっきりとターゴは話し続けていました。当然、努力は少しも報われず、わたしは一言も理解できません。何らかの理由で、ターゴを苛立たせたようでしたし、わたしも同様に苛立ちが募ってきました。ターゴは相手がネイティブであろうがなかろうが、誰でも彼の奇妙な言語を理解できるものと、あたかも思っているようです。なんと単純で偏狭な男なんでしょう。
 英語ですらありません。
 ターゴはわたしとの意思の疎通を図りましたが、無駄でした。
 ある時点で部下の一人の方を向いて、質問をしたようでした。その男は一言答え、どうやら否定のようでした。
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ゴルの虜囚 54 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


6. 奴隷商ターゴとの邂逅(4)

 よろめきながらも笑って、彼らのほうに向かい丘を駆け降りました。
 男たちのうち二人がこちらに走ってきて、荷車の脇にいたあと二人は、わたしを通り過ぎ丘の上に走りました。
「わたしはエリノア・ブリントン」わたしのところに来た男たちに話しました。
「ニューヨークに住んでいます。道に迷ったんです」
 男の一人は、両手でわたしの左腕を掴みました。もう一人は、両手でわたしの右腕を掴みました。男たちはすばやく、優しくはなくわたしを引っ張って導き、荷車の人たちのところに丘を下りて行きました。
 しばらく彼らはわたしを掴んだままで、荷車の横に立っていました。
 青と黄色の広いストライプの絹のローブに身を包んだ、背が低く太って肉付きの良い太鼓腹の男が、かろうじてこちらを見ました。二人の男が行った丘の上を、より気にするように見つめていました。男たちはかがんで丘の上を見回していました。荷車に残ったあと二人の男たちは、反対側の100ヤードほど先を見回していました。荷車の前の、引き具をかけられた女たちは不安そうに見えました。太った男はイヤリングと、金の台座のサファイアのペンダントをつけていました。髪は黒くて長く、手入れはよくされていないようでした。汚くて櫛もあまり入れていないようです。青と黄色の絹で後ろに縛ってありました。紫のサンダルは、紐に真珠があしらわれています。サンダルはもはやほこりにまみれ、真珠はいくつかなくなっていました。小さくずんぐりした手には、いくつか指輪がはめられ、手も爪も汚れていました。この男は、個人的習慣に関して、かなり気難しいのかもしれないと感じました。でも今は、明らかにそうではないようでした。憔悴し、心配事がありそうでした。荷車から100ヤードほど離れた草原での捜索から、灰色の髪で片目の男が戻ってきました。何も見つけられなかったと推測しました。男は太ったずんぐりした男を「ターゴ」と呼びました。
 ターゴは丘の上を見上げました。丘の上からちょっと下った所に立った男が手を振り、手を上げて肩をすくめました。何もなかったようです。
 ターゴは深く息を吸い込みました。目に見えて緊張を解いていました。
 そしてわたしを見つめました。
 わたしはとびっきりかわいい笑顔で微笑み、「ありがとう、助けてくれて」と言いました。
「わたしの名前はエリノア・ブリントンです。地球という惑星の、ニューヨークに住んでいます。すぐに帰りたいんです。お金はあるから、連れて行ってくれるなら謝礼は保証します」
 ターゴはいぶかしげにわたしを見つめました。
 でも英語はわかるはずでしょ!
 別の男が戻ってきて、何も見つけられなかったことを報告したようでした。多分監視させるため、ターゴは男を後ろに戻し、丘の上の男の一人も呼び戻しました。もう一人はそこに残しました。やはり監視させるためだろうと思います。


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訳者の言い訳と解説
 第6章のタイトルが「奴隷商ターゴとの邂逅」なので、
奴隷商だというのはお分かりと思いますが、
「青と黄色」は奴隷商に割り当てられた色です。
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ゴルの虜囚 53 【CAPTIVE OF GOR】



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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


6. 奴隷商ターゴとの邂逅(2)

 だいたい午後の中ごろ、草深い二つの丘の間の緩やかな坂に腰を下ろしました。
 助かる見込みはあるかと考えました。
 冷笑しました。ここはわたしの世界ではないとわかってるわ。わたしを運んできた船は、この種の自分の限られた知識からしても、現在の地球の文明の能力をはるかに超えています。わたしを捕らえた船の乗組員は確かに人類か、人類のようでした。銀色の船の人たちも、大きくて繊細な金色の生き物以外は、人類のようで、より人間らしく感じました。
 でも黒い船は壊れてしまった。銀色の船も行ってしまった。多分、他の世界へ。
 それでも助かりたいのよ!助かるわ!助かるに決まってる!
 とても怖いわけでもなくなっていました。
 この世界でも生きていけるわ。
 でも、孤独。
 ここには恐れるものは何もないと、自分に言い聞かせました。食べるものも、水もあります。ベリーを見つけたんだから、他にも果物とか、木の実があるに違いないと思いました。
 わたしは笑い、自分を励ましました。
 それから、寂しくて寂しくて泣きました。わたしは一人ぼっちなんだ。
 はっとして顔を上げました。空気を貫けて、間違いようもなくどこかから、叫び声が、人の声が聞こえたのです。
 乱暴に飛び上がって、よろめきながら丘を駆け上がりました。頂上で見回し、見下ろしてから、大声をあげて手を振り、丘の脇を駆け下りました。よろめきながら、叫びながら、手を振りながら。目には喚起の涙が浮かびました。
 人だわ!助かるんだわ!あの人たちは食べ物も、雨露をしのぐところも、水も持っているでしょう。救われたんだ、安全だわ!安全なんだわ!
「止まって!止まって!」叫びました。
 荷車が一台。荷車の周りには七、八人男がいました。動物はいません。前には草の上に、服を着ていない娘が十五~二十人ほどいました。彼女たちには引き具が付けられているようでした。男が二人、娘の近くに立っていました。荷車は傷んで、ところどころ黒いしみが付いていました。青と黄色の絹の幌は破れていました。荷車の前には、青と黄色の縞の絹のローブをまとった背の低い太った男がいました。みんな驚いて、こっちを向きました。
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ゴルの虜囚 52 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


6. 奴隷商ターゴとの邂逅(2)

 歩き続けました。
 夜明けから二時間ほどして、岩がむき出しのところにたどり着きました。ここで、石の間に雨水の小さな水たまりを見つけて、水を飲みました。
 嬉しいことに、近くに食べられるベリーを見つけました。おいしくて、この原野で何らかの自信が付きました。
 太陽が空に昇り、暖かくなってきました。二度ほどにわか雨がありましたが、別に気になりませんでした。空気は澄み渡り、草は緑、空は抜けるように青く輝き、雲は白い。
 太陽が頭の上に来た頃に、もっとベリーを見つけて、今度はお腹いっぱい食べました。そう遠くない別の岩場で、雨水が溜まった水溜りを見つけました。大きな水溜りで、欲しいだけ水を飲み、顔を洗いました。
 そして歩き続けました。
 もう恐れないし、気が立ってもいません。この世界で生きていくのも不可能ではなさそうに思えました。
 美しい世界。
 少し走ると髪が後ろになびきました。笑って飛び跳ねてターンして、また笑いました。誰もいません。少女だった頃以来、やったことはありません。
 それから、暗い色の巻きひげのある葡萄のような植物が片方にあるのを見て、注意深く歩みました。わたしの存在を感知して、カサカサ音を立てているのを見て、立ちすくみました。牙のあるさやがいくつか、わたしを感知して頭のように持ち上げ、ゆるやかに前後に動いていました。
 でももう恐れることはありません。この植物が危険だとわかっています。
 歩き続けました。
 動物も見かけません。
 そこかしこにベリーを見つけ、時々岩場ではだいたいいつも決まって、最近の雨水が溜まっていました。
 でも、わたしはとても寂しいと思いました。


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訳者の言い訳と解説
 恐るべき状況適応能力とバイタリティですよね。
自分がいる場所が地球ではないことも、かなり早い段階で理解しています。
地球からゴルに連れてこられるのは、こういう人が選ばれるのです。
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ゴルの虜囚 51 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


6. 奴隷商ターゴとの邂逅(1)

 明け方近くに目を覚ますと、とても寒くて、どんよりとじめじめした天気でした。ひどくお腹が空きました。体はこわばっていて痛み、すすり泣きました。葉の長い草の露を吸いました。わたしは一人ぼっちなんだわ。服は濡れて、惨めでした。わたしは一人ぼっち、たった一人なんだわ。怖くて、お腹が空いて、涙が出ました。
 わたしが知る限り、この世界にいるのはわたしだけかもしれない。船はここで壊れたけれど、この世界のものではないのかもしれません。他の船が難破船を破壊しに来たけれど、その船もこの世界のものではないのかもしれません。壊れた船の生存者も見てないし、他の船も立ち去ってしまいました。わたしが知る限り、わたしがこの世界の唯一の人類なのかもしれないわ。
 立ち上がりました。
 周りには、ほの暗い明かりを反射し、きらきら輝く柔らかな露が、波打っていました。草原が見えるばかりで、果てしなくうねりが続き、何もないかもしれない地平線に囲まれたわたしを拒絶していました。
 わたしは、孤独でした。
 原野の真ん中を歩いてゆきました。
 清らかな朝に、鳥のさえずりが聞こえました。近くの草の中に、わずかに動きがありはっとしました。二つの長いげっ歯のある毛皮の小さな生き物が、軽快に走り去って行きました。
 歩き続けました。
 本当に飢えてしまうわ。食べるものは何もない。泣き叫びました。
 一度空を見上げると、大きくて白くて広い羽の鳥たちが見えました。薄墨色の空高くに、あの鳥たちも寂しいそうにしていました。あの鳥たちもお腹が空いているかしら。
 わたしはとぼとぼと歩いていました。
 何が起こったのか理解できません。あまりにも大ごとで、あまりにも理解しがたいことです。あの八月の朝に目を覚ましてシャワーを浴びたこと、男たちから逃げようとしたこと、地球の林を疾走したこと、船、わたしが入れられたプラスチックか何かの、厚くて透明なシリンダーやチューブのことを思い出していました。
 そして今、わたしは一人ぼっち。
 エリノア・ブリントンは、ひとりぼっちで知りもしない世界の原野を彷徨っているのです。

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訳者の言い訳と解説
奴隷商ターゴは、2巻だったか3巻に出てくる、
タルゴかも。Targoなので発音はターゴの確率が高いのではないか、
ということでターゴにしています。

追記:やっぱり2巻のタルゴと同一人物みたいです。
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ゴルの虜囚 50 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


5. 三つの月(8)

 走らなくちゃいけないわ。歩かなきゃいけないわ。そして何時間かよろよろと歩きました。
 一度休もうとして立ち止まりました。息を切らして草の上に横たわりました。目を閉じると、カサカサと音が聞こえました。顔を向けて目を開け、びっくりして見ました。つる性の巻きひげと葉のあるものでした。閉じたり割れたりした豆の鞘が、こっちに向かって動いてきました。地面からかすかに持ち上がり、あちらからこちらに動いていました。鞘の中の上の面には、二つの長い角のように曲がったとげが、しっかりと付いているのが見えました。わたしは悲鳴を上げて飛び起きると、それが突然ぶつかってきて、右足のパンツの布を引き裂きました。布を破って足を引き離しても、何度も何度もぶつかってきました。植物には根があるし、届かないところにいるのに、においか体温を感知しているかのようです。頭を後ろに傾け、頭の脇を手で押さえて悲鳴を上げました。近くで別の物音が聞こえました。思い切って見回すと、別の同じような植物があと二つありました。そして他にも。汗をかきながら、その地帯から用心して歩いて逃げました。そのうち草の開けているところに着きました。
 何時間も走り続け、歩き続けました。ついにはだんだん寒くなり、暗くなってきました。
 遠くには行けないわ。
 草の上に倒れこみました。
 暗くて、美しくて、風のある夜でした。白い雲が風に運ばれ、空を渡っていました。星を見上げました。こんなにきれいな星は見たことがありません。星が夜の暗闇に、きらきらと輝き燃えていました。
「なんてきれいな世界。なんて美しいの!」
独り言を言いました。仰向けになって星と月を見上げました。
 月は三つ。
 わたしは、眠りに落ちました。

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訳者の言い訳と解説
第5章終了です。
遂に連載50回目!読者様のおかげです^^
ありがとうございます。
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ゴルの虜囚 49 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


5. 三つの月(7)

 しばらく経っても何も起きなかったので、顔を上げました。
 銀色っぽい円盤は、半分埋まっている黒い船の裂け目の近くに着陸していました。
 黒い船は赤っぽく輝いていましたが、数分後には輝きが消えて行きました。
 銀色の船のハッチが開き、男たちが飛び出してきました。銀色の管か杖のようなものを運んでいて、多分武器です。彼らは黒い船の人たちのようにチュニックを着ていましたが、光沢のある紫っぽい素材でした。髪は剃られていました。男たちの何人かは船の周りを取り囲み、別の男たちは武器を持って中に入ってゆきました。
 それから恐ろしいことに、大きくて金色の生き物が、足は六本あって後ろの長い四本で体を支え、まっすぐな姿勢で銀色の船から出てきました。大きな目で、触覚だと思われるものがありました。その生き物は、すばやく、繊細に、上品ともいえる動きで船に向かい、四つんばいで黒い船に消えました。男たちが何人か後に続きました。
 恐らく一分以下で、その生き物と男たちが船から現れました。従者とともに銀色の船にまた入ってゆきました。ハッチが閉まると同時に、音もなく草から数百フィート上昇し、黒い船の残骸の上で動いていました。突然青っぽく光り、高熱の光で爆発が起きました。わたしは頭を下げました。頭を上げたときには、銀色の円盤はいなくなっていました。そして黒い船の残骸も。黒い船があった地面のくぼみと、その周りが数十フィートほどの地面が焦げていました。それなのにボルトもガラス片も、鉄くずも、何もかも見つけられませんでした。
 森の向こうから、また大きな動物の咆哮が聞こえました。
 わたしはもう一度背を向けて逃げました。
 前に水を飲んだ小川まで来たので、歩いて渡りました。
 何かが足首に当たり、刺さりました。叫び声を上げ水を蹴散らして渡りました。
 それからまた走りました。

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訳者の言い訳と解説
多少ネタバレになりますが、
これまで反地球シリーズを読んできた人には、
金色の生き物は神官王、頭を剃られた紫のチュニックの男たちは
神官王のムル(奴隷)とわかりますね。
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ゴルの虜囚 48 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


5. 三つの月(6)

 生き返った気持ちで、力が沸いてきたので立ち上がりました。憂鬱に見回して食べ物を探しましたが、調理用具がいくらかあるだけで、ナイフも武器として使えそうな物もありませんでした。
 それから、この船に長く居すぎたかもしれないと思いました。死体はないけど、ベッドに血のしみは見つけていました。生存者がいるなら戻ってくるかもしれません。怖くなってきました。食べ物を探し、食べることに夢中で、全て忘れていたのです。
 調理室のドアを開けると、鳥のさえずりが聞こえました。
 小さな鳥で、すずめくらいの大きさですが小さくてふくろうにちょっと似ていて、目の上にふさがありました。紫がかった色でした。こちらをいぶかしげに見ながら、折れたパイプに止まっていました。
 少しの間こちらを見てから、せわしなく羽を動かし、船から飛び去ってゆきました。
 わたしも、船から逃げ出しました。
 外はすべてが平穏に見えました。立ち止まりました。船のずっと後ろには、暗い森。草原は右側に伸び、もうちょっと左のかなたには、さっき見た黄色っぽい藪がありました。太陽の位置は変わり、影が長くなっていました。この世界の、午後だろうと判断しました。寒くはありません。この世界に季節があるなら、春に違いないと推測しました。ここの年はどれくらいの長さなんだろう。
 もっと近くを見回すと、そこに何か、恐らく朝早くに箱か何かが置かれたような、草が踏みつけられたところがいくつかありました。草の上には、あるところには女性の髪の毛の房、別のところには黒ずんだ赤茶色のしみ。
 逃げなくちゃ!
 森のほうを向きましたが、その暗闇に恐怖心が沸きました。
 突然、森のはるかかなたから澄んだ空気を貫けて、大きい動物か何かの咆哮が轟いてきました。
 森に背を向け、地平線に向かってやみくもに草原を走りました。
 それほど走らないうちに、空の向こうに、敏捷に動く銀色っぽい円盤状の物体が見えました。こちらに向かって急速に動いています。草の中に飛び込み、手で頭を覆いました。
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ゴルの虜囚 47 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


5. 三つの月(5)

 ぞっとしました。食べ物や武器を探したいと思って、船を駆け抜けました。乗組員の部屋を見つけました。ロッカーと六つの簡易ベッドと鏡がありました。ベッドは三つが壁際にあり、二枚の壁で固定された二段ベッドでした。ロッカーは壊れて開いていて、中身は空でした。ベッドの一つの脇に、血が付いているのに気がつきました。
 部屋から急いで出て、小さな調理室を見つけました。隅には小さな犬ほどの大きさの動物が、背を丸めて何かをかじっていました。突き出た口を持ち上げ、しゅうしゅうと唸り威嚇してきて、首と背中の毛を突然パチパチと音を立て逆立てました。
 わたしは悲鳴をあげました。その動物は二倍ほどの大きさになったように感じました。
 蓋がはじけ飛んだ金属の容器の上に身を乗り出し、丸まって皿を守ろうとしていなくもありませんでした。
 その動物は絹のように艶々した毛で、目は炎のようにきらめいています。まだらで黄褐色でした。口を開けまた威嚇の声を上げました。針のような歯が三列に生えていました。先に見た小さな動物と違い、足は四本だけでした。あごから角のような牙が突き出ています。きらめく邪悪な目の上に、頭から黒い角が二本隆起してきました。
 わたしは空腹で気が立っていました。戸棚を開けるとコップがいくつかあるだけでした。
 ヒステリックに悲鳴を上げて、その動物に金属のコップを投げつけました。
 動物は歯をむき出して唸り、コップが後ろの金属の壁にぶつかると、さっと走り去りました。絹のような体がわたしの足にぶつかり、調理室から走り出して行きました。毛のない巻き上がったしっぽをしていました。
 叫びながら調理室のドアを閉めました。
 戸棚も引き出しも箱も、全部開けました。食べられるものはみんな持って行かれたようでした。餓死するじゃないの!
 調理室の鋼の床に座り込み、すすり泣ました。泣いてから、蓋がはじけ飛んで中身がさらされた、醜い嫌らしい絹のような毛の動物が食べていた、平らな金属の容器のところに行きました。
 息も詰まりそうに、吐きそうになりながら食べました。
 それは肉で、厚みがありきめの粗い牛肉のような、でも牛肉ではないものでした。
 手と指で、容器からかけらまでかき集めました。足りなかったけどむさぼり食いました。肉汁最後の一滴まで、指を吸いさえしました。
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ゴルの虜囚 46 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


5. 三つの月(4)

 制御室らしきところを見つけました。椅子が二つと、椅子の前には大きな窓がありました。この部屋には、脇にたくさんのダイヤルや計器、スイッチの前に椅子がもう二脚あって、全部で椅子は四脚でした。エンジンルームは見つけられませんでした。この船を操縦するのがどんな力であるにせよ、床の板を通じて届くのでしょう。この船のエンジンも武器も、武器があるとしたらですが、制御室から操作するに違いありません。わたしが監禁された、硬いプラスチックのシリンダーが置かれていたエリアを見つけました。シリンダーは全部開けられていて、中身は空でした。
 後ろから音が聞こえたので悲鳴を上げました。
 小さな毛のある動物がちょこちょこ走りすぎて、爪で鉄の板を掻いていました。その動物には足が六本ありました。わたしはパイプのある棚に寄りかかり、息をのみました。
 でも今は怖くなりました。
 船には誰もいません。
 みんなどこにいるの?この船は壊れてるのに、体もない。もし生存者がいるなら、どこに行ったの?すぐに戻ってくるの?
 船の中心部に戻り、大きな鉄の裂け目をもう一度見ました。わたしには、単純な事故が原因ではないように思えました。裂け目は四つです。一つは船の底の方、5フィート四方くらいです。二つは左側で、一つ目より小さ目でした。わたしが船に入った裂け目が一番大きいものです。鋼の花弁のように裂けて開いていて、高さ9フィート以上、左側の巨大な深い傷は、高さわずか4インチほどに下向きに先細りして裂けていました。もちろん、船には中にも外にもおびただしい損傷がありました。穴が開いていたり、板が曲がったり、そんなふうです。たくさんの曲がった板からして、この船は衝突したかもしれないと推測しました。もう一度、大きな裂け目を見ました。この船が攻撃されたと考えられなくもないと思いました。
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ゴルの虜囚 45 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


5. 三つの月(3)

 船には動きがないようで、周りに鳥が何羽か飛び交っています。
 中に食べ物があるかもしれないわ。ゆっくりと、びくびくしながら、船に一歩一歩近づいて行きました。鳥のさえずりが聞こえました。
 遂に、船から20ヤードあたりに恐る恐る回り込みました。
 船は裂けて開いていて、鉄の板ははがれて曲がり、焦げて火ぶくれしていました。
 生き物の気配はありません。
 半分草に埋まっている船に近づいて行きました。鉄の大きな裂け目の一つから、中をのぞき込みました。縁は溶けて固まっていました。所々に鉄が溶け出して垂れていて、刷毛で塗ったペンキが重くしたたり固まったかのようでした。船の中は黒く焦げていました。あちこちにあったパイプは破裂し、パネルはばらばらに裂けて複雑な中身が露出し、中の回路は黒くなっていました。厚い、ガラスか水晶かプラスチックかのあちこちの舷窓は、割れていました。
 鉄の板の上で、裸足の足で壊れたボルトを踏んでがくっとなったけれど、息つめて船に入って行きました。
 誰もいないようです。
 船の内装はこぢんまりと整えられ、備品とチューブの間や、パイプと計器の間に小さいスペースがあるだけでした。通路は時々曲がったパイプで半分塞がっていたり、絡まったワイヤーが横から飛び出したりしていて、なんとかかき分けて進みました。
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ゴルの虜囚 44 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


5. 三つの月(2)

 周りを見回しました。
 自分から数百ヤードかそこらに、金属の砕けた塊がありました。亀裂の入った黒い金属の構造物が、半分草に埋まっていました。
 船だわ。
 わたしの足首には、もう足かせが付いてないことに気がつきました。外れていたのです。
 捕らえられた時の服のままで、皮色のパンツ、黒いベア・ミドリフのブラウスでした。サンダルは地球の林で無くしました。わたしが取り乱した動物であるかのように、的を外さず追ってきて、罠に陥れた小さな黒っぽい船から逃げていた間です。
 船から遠くに走り去るべきだと思いました。でも金属の塊の周りには、生き物の気配はしません。それに、ものすごくお腹が空いています。小川の方に這いつくばっていき、四つん這いで口に水をすくいました。
 流れの底の黄色い花だと思っていたものが、小川の冷たい表面を割り、小さい黄色の魚の群れになったので、びっくりしました。
 のどを潤しました。
 船から離れたいわ。どこかにあの男たちがいるかもしれない。
 あの黒いチュニックを着た男たちにも、カプセルの機械を扱っていた上層部らしき男たちにも、恐怖を覚えました。
 地球では、男を恐れたことはありません。わたしは男を嫌悪していたし、軽蔑していました。男ってものは気に入られたがって、とても操りやすくて、いつも言いなりで、ものすごく無意味で、弱くて、従順で。でもあの黒いチュニックの男たちにも、機械を操っていた男たちにも、わたしは恐怖を覚えました。恐怖を感じた初めての男です。最後の男になることは、ないでしょう。
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ゴルの虜囚 43 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


5. 三つの月(1)

 何が起こったのか推測するのは容易ではありません。
 どのくらい意識を失っていたのもかわかりません。
 わかっているのは、目を覚ますと草の上で顔を横にしてうつぶせになり、意識が朦朧としていることだけです。指が草の根をむしり取っていました。叫び声をあげたかったけど、身じろぎしませんでした。八月のあの日の午後と夜のできごとが脳裏をかすめました。目を閉じて、眠りに戻らなくては。目を覚ませば、自分の部屋の白いサテンシーツのベッドにいるに違いないわ。でも頬に当たるみずみずしい草が、なじみのある部屋にいるのではないことを物語っていました。
 手とひざをついて体を起こしました。
 目を細めて太陽のほうを向くと、何かが違うように感じました。手を動かし地面に立ちました。
 恐怖に胃の中のものがこみ上げてきました。
 地球ではない。わたしの知っている地球ではないと気づきました。別の世界、違う世界、わたしの知らない奇妙な世界。
 空気がすばらしく澄んできれいな気がして、こんな空気は初めてでした。草は露に濡れ鮮やかな緑。わたしはどこかの草原にいて、遠くに高い木々がうっそうと生えていました。そばに咲く小さな黄色い花を、途方にくれて見つめていました。こんな花は見たことがありません。森から遠く向こうに、黄色っぽい藪と木が見えました。木は緑ではなく、鮮やかな黄色でした。近くで小川の音が聞こえました。
 怖いわ。
小さくて紫色の鳥が頭の上を飛んだので、悲鳴を上げてしまいました。
 遠くの黄色っぽい藪の近くで、小さな黄色い動物が優雅に動いているのが見えました。遙か遠くで、良く見えません。鹿かガゼルだろうと思いました。その動物は、藪の中に消えました。
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ゴルの虜囚 42 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


4. 奴隷のカプセル(12)

 奇妙な感覚はかなりのあいだ続きました。しばらくすると、何分かシリンダーの側面にひどく押しつけられました。すると突然なんの力もかかっていないようになり、シリンダーの反対側に押し流され、怖くなりました。指一本の力で、ひどく押しつけられていた側から戻ることができました。下降しているのだと思いました。しかしすぐ後に、底に金属の板の付いたサンダルを履いた、黒いチュニックの男の一人が、一歩ずつ慎重に金属の床を横切りました。そこは床だったけれど、今はわたしの左側の壁になっていて、不思議と男が壁を動いていたのでした。
 わたしは惨めに叫び声を上げました。
 今やこのカプセルの中で、絶望的に方向がわからなくなりました。
 方向感覚が全くなくなり、どっちが上か下かも、もはや方向があるのかさえもわかりません。
 男はシリンダーに引き込まれたホースが繋がっている機械のところへ行き、小さなダイヤルを回しました。
 すぐに何か違う空気が、わたしの入っているシリンダーに送られていると気づきました。
 様々なスイッチの下に、他にも同じようなダイヤルがあり、疑いなく各容器のものでした。
 男の注意を引こうとして叫びましたが、明らかに聞こえていません。それか、そんなことには関心がないのでしょう。
 今は穏やかな力がわたしをシリンダーの別の側に引っ張っていることに、漠然と気がつきました。今は天井も床も元通りになっていることにも、漠然と気がつきました。意識が完全にははっきりしない中で、男が部屋を出て行くのが見えました。
 プラスチックの容器ごしに外を見ました。硬くて、湾曲した透明な牢獄の壁に頭を押しつけました。
 裕福で、賢くて、自惚れが強くて、傲慢で、誇り高きエリノア・ブリントン。確かなことは、逃げられなかったこと。
 エリノアは囚われの身。
 エリノアは自分に何が起きたのか、拘束されていずこへ行くのか、生きる運命かも知りません。

 意識がなくなってゆきました。

゚・*:.:*・゜゚・*:.:**・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜
訳者の言い訳と解説

 第4章終了です。
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ゴルの虜囚 41 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

4. 奴隷のカプセル(11)

 めまいがし始め、息苦しくなってきました。
 男の一人が、頭の上の小さな開口部に、細い管を取り付けたので、わたしは顔を上げました。
 酸素がシリンダーに流れ込んできました。
 別の管がわたしの足下に接続されると、ほとんど聞き取れない小さな音を立てて、空気を吸い込み、息ができるようになりました。
二人の男は中央通路に立っていて、気をつけをして一人は棚の右を、もう一人は棚の左を押さえていました。突然わたしはエレベーターにいるような感覚になって、一瞬息ができなくなりました。今や上昇しているのだと悟りました。シリンダーに押しつけられる体の感覚からすると、垂直か垂直に近い形で上昇しているに違いありません。特に強い圧迫はなく、少し不快感がありました。早くて怖かったけれど、痛みはありません。モーターの音も、エンジンの音も聞こえませんでした。
 だいたい一分ほど経つと、棚を押さえていた二人の男が部屋から立ち去りました。
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ゴルの虜囚 40 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


4. 奴隷のカプセル(10)

 力強い手がわたしを後ろから掴みました。黒いチュニックを着た男のうちの一人でした。彼の頬骨のところには、小さい三つのかき傷がありました。わたしは涙を流して蹴飛ばしながら、船を通るパイプと板の列の間を押しやられました。
 そしてカーブしたエリアに来て、ぞっとしました。金属の棚が密接してぎゅうぎゅうに詰められていていました。棚は上は曲がった船の金属の天井に、下は金属の床に固定されていました。列の間には狭い通路がありました。棚の中には、大きくて、透明な、硬いプラスチックでできていそうな透明なシリンダーやチューブが、床に平行する長い軸にベルトでとめられていました。その中には、わたしが見た、トラックから運ばれた女性たちが入っていました
 わたしは中央の通路の、右も左もシリンダーの棚の間に無理やり押し込まれました。
 そして、そこで押さえられました。
 空のシリンダーがわたしを受け入れるように、だいたいわたしの目の高さで右に近づいてきました。
 そこで、わたしを後ろから腕で押さえている男が立ち止まりました。
 責任者らしい服をまとった他の男が、シリンダーの端の蓋をねじって開けました。
 二つの細い注入管があり、シリンダーの両端に固定されていました。注入管は壁の機器に導き入れられていました。

*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:**・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*
訳者の言い訳と解説

 シリンダーは縦置きじゃなくて横置き。
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ゴルの虜囚 39 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


4. 奴隷のカプセル(9)

「急げ!急ぐんだ!」黒いチュニックの男が叫びました。
「ランデヴーしなくてはなりませんな!どうぞこちらへ」
背の高い男が、船のほうへ招く身振りをしました。
 鈍くわたしは船のほうに体の向きを変え、背の高い男の先に立ちました。
「急ぐんだ、カジュラ」
男は穏やかに言いました。
 タラップを上り、振り向くと彼は後ろの草の上に立っていました。
「お前の時間では、今日は経緯線の6時16分に夜明けが起こる」
 太陽のふちがわたしの世界の端に昇り、色付いてゆきました。東には夜明けがありました。これが初めて見た夜明けです。一晩中徹夜したことはそう何回もありませんでした。朝日が昇るのを見たことはありません。
「さらばだ、カジュラ」
 わたしは叫び声を上げて腕をいっぱいに伸ばしました。鉄のタラップが跳ね上がり定位置に固定され、わたしを船の中に閉じ込めました。紋章の入ったドアもタラップの向こうでスライドし、定位置に固定されました。わたしはその金属の板を、泣きじゃくりながら乱暴にどんどん叩きました。
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ゴルの虜囚 38 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


4. 奴隷のカプセル(8)

 そしてわたしは、元々着ていた皮色のパンツと、黒いベア・ミドリフのブラウスを身にまとい、男たちの前に立っていました。鉄の足かせ以外は。
「よく見ろ」
背の高い男が黒い船を指しながら言いました。船を見ると、表面の光が明滅し始めました。光が渦を巻くように絡み合い、目の前で光が灰色がかった青から、すじ状の白へと変化して行きました。
 東に、曙光(しょこう)が見えました。
「これは地面の光にカモフラージュする技術だ」
背の高い男が言いました。
「原始的なものだ。中のレーダー遮蔽装置はもっと高性能だが、光のカモフラージュ技術は、かなり我々の船の目撃を抑えることができるのだ。それにもちろん、普段我々は行き来は大きな船で決められた地点にしている。小さいほうの船はもっと広範囲で使われるが、通常は夜だけ、隔離された地域だけでだ。ちなみに、光カモフラージュとレーダー遮蔽が装備されている」
 男の言っていることはほとんどわかりませんでした。
「服を脱がせますか?」部下の一人が訊ねました。
「いいや」背の高い男が言いました。
 背の高い男はわたしの後ろに来て、
「船にご一緒願えますか?」
と訊ねてきました。
 わたしは動かず、彼のほうを向きました。
「急げ!夜明けまで2エーンだ」
黒いチュニックの男が大きな船の中から呼びました。
「あなた誰なの?どうするつもり?」
わたしは許しを請いました。
「好奇心は」男が言いました。「カジュラにふさわしくない」
男を凝視しました。
「それを理由にぶたれることもある」


*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:**・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*
訳者の言い訳と解説
 背の高い男の、光カモフラージュのくだりは、
わたしもわけがわかりません。
この人は英語圏の人ではないので文法も間違ってるのか、
わたしが文法を理解できてないのかもわかんない。。。
この箇所も、腕が上がったら修正ということでご容赦ください。
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ゴルの虜囚 37 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


4. 奴隷のカプセル(7)

 背の高い男が黒いチュニックの男にうなずきました。黒いチュニックの男が手を上げると、小さい円盤の船がゆっくりと離れ、大きい船に向かって動きました。大きい船の荷役口が上にスライドし、小さい船が中に入って行きました。中で黒いチュニックを着た男たちが、金属の床の板に小さい船を固定しているのが、一瞬見えました。荷役口がまた滑るように閉まりました。残りの箱は、今やトラックに戻されていました。空き地のあたりをそこかしこに男たちが動き回り、荷物をまとめてトラックに積んでいます。
 わたしは腕は動かせませんでしたが、かろうじて指は動くようになりました。
「でもあなたの船は、小さい船はわたしを見つけられなかったみたいじゃない」
「見つけたさ」
男が言いました。
「あの光は、わたしを捉えなかったわ」
わたしが言うと、
「お前はただ運悪く、単なる偶然でこの駐留地に陥ったと思っているのか?」
男が訊ねました。
 わたしが惨めにうなずくと、男が笑いました。
こわごわと男を見ると、
「あの光は・・・・・・、お前はずっとあの光を避けて走っただろう」
わたしは歯噛みしました。
「お前はここに誘導されたのだ」
わたしは惨めで叫び声をあげました。
 男は部下に向き直り、
「ミス・ブリントンの足かせは持ってきたか?」
 部下が彼に足かせを手渡しました。金属で、ちょうつがいの留め金が開いていました。
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ゴルの虜囚 36 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


4. 奴隷のカプセル(6)

「離して!お願いよ!お願いだから!」わたしは叫びました。
「時間がないぞ!早くしろ!」
黒いチュニックの男が急き立てました。
「ハンドバッグを持って来い」
背の高い男が穏やかに言いました。わたしが逃げようとしたときに落としたところから、ハンドバッグが持って来られました。
 背の高い男がわたしを見て、訊ねました。
「お前がどうやって後をつけられたのか、気になるんじゃないか?」
 わたしは痺れながらもうなずきました。
 男はハンドバッグから、あるものを取り出しました。
「これはなんだ?」
「わたしのコンパクトよ」
 男は微笑み、コンパクトをひっくり返して底をねじ開けると、中には信管の付いたちっちゃな筒がありました。それは細かい銅色の線に覆われた、丸い板状でした。
「この装置は、百マイル離れていても我々がキャッチできる信号を送るのだ。同じような装置が車の下にも隠されている」
 わたしはうめきました。
「あと6エーンで夜明けだ」
チュニックの男が言いました。
東に明かりが見えましたが、彼が言っていることはわかりませんでした。
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ゴルの虜囚 35 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


4. 奴隷のカプセル(5)

 わたしを追ってきた小さいほうの黒っぽい円盤から、男が一人近づいてきました。
「時間がないぞ」
 背の高い男はうなずきましたが、慌てた様子も急ぐ様子もありません。
 注意深くわたしを見て、
「まっすぐ立て」と急かすふうでもなく言いました。
 わたしはまっすぐ立とうとしましたが、腕は衝撃で麻痺したままで、指も動かせません。
 背の高い男は、枝で打って切れて血の出ているわたしのおなかに触ってから、頭のほうに手を上げて、切れた頬を見て言いました。
「我々には喜ばしくないな」
わたしは何も言いませんでした。
「膏薬を持って来い」
男が言いました。わたしはまた何も言いませんでした。
 軟膏が持ってこられ、二つの傷に男が軟膏を塗りました。匂いはしません。驚いたことに、たちまちに吸収されたようでした。
「もっと気をつけたまえ」
わたしはやはり、何も言いませんでした。
「自分でしるしか、焼印を付けたかもしれないんだぞ」
男は軟膏を他の男に返してから、わたしに言いました。
「かすり傷だ。傷跡は残らず治るだろう」
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ゴルの虜囚 34 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


4. 奴隷のカプセル(4)

 わたしは悲鳴を上げ、体の向きを変えて走ろうとしました。男がわたしを掴んだので、ハンドバッグから肉切り包丁をもぎ取り、荒々しく切り付けました。男は痛みに悲鳴を上げ、切れて血の出た袖を押さえました。わたしはよろめいたけれど、走ろうとして立ち上がりました。しかし男たちがわたしの周りを取り囲んでいます。包丁を振り上げて狂ったように攻撃しました。すると、手も手首も腕もすべてが、信じられないくらい麻痺する何かの衝撃を感じ、包丁が手から落ちました。腕が痛んでゆっくりと下がりました。指を動かすこともできません。痛みにうめき声を上げました。一人が包丁を拾い、別の男がわたしの腕を取り、背の高い男の前に突き出しました。わたしはうずくまって背の高い男を見上げ、涙を浮かべてすすり泣いていました。
 背の高い男は、小さな道具をジャケットのポケットに戻しました。小さな懐中電灯に似ていて、その光線がわたしを打ったのですが、見えませんでした。
「痛みはすぐ治まる」
背の高い男がわたしに告げました。
「お願い、助けて」と頼みました。
「お前はとびきりの上玉だ」
男は言いました。わたしは痺れながら男を見ていました。
 わたしが包丁で切りつけた男は、自分の腕を押さえながら背の高い男の後ろでニヤニヤ笑っていました。
「腕の手当てをしておけ」
背の高い男が言うと、もう一人がまたにやりと笑ってから、向きを変えてトラックのほうに行きました。
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ゴルの虜囚 33 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


4. 奴隷のカプセル(3)

 他の男たちが、ハッチの開いた大きい船の近くに停めたトラックから、若干大きめの四角い箱を、丁寧にでもなく運び始めました。
 わたしは半開きになったハンドバッグを、右手に掴んでいました。吐きそうだわ。
 背の高い男がわたしの左手を取り、腕時計を外しました。
「これはおまえには必要なくなる」
そう言って、別の男に腕時計を手渡しました。
 5時42分。
 男たちがトラックの荷物を降ろし、船の開いたハッチの近くに置いた大きな木箱の脇の留め金を外し始めました。
 恐怖に引きつってその光景を見ました。
 それぞれの箱は、紐と留め金で厳重に締められていて、中に輪が付いていて、女性が一人ずつ入っていました。それぞれが服を脱がされ、それぞれが意識を失い、それぞれがさるぐつわをされ、それぞれが首輪をされていました。
 男たちは女性のさるぐつわと首輪を外して解放してから、鉄の足かせらしきものに左足をつないでいました。
 そして意識のないまま、船の中に運ばれていました。
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ゴルの虜囚 32 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


4. 奴隷のカプセル(2)

「あんたたち誰なの?何なのこれは?」
わたしが囁くと、
「離してやれ」
黒いチュニックの男が言い、わたしを掴んでいる男が手を離しました。
わたしは男たちの間に立っていました。
今度は空き地のもう一方に、トラックがあるのが見えました。
いろんな大きさの箱がトラックから運び出され、船に積み込まれていました。
「首輪は気に入ったか?」
黒いチュニックの男が愉快そうに尋ねてきたので、思わず手を自分の首にやってしまいました。
 男はわたしの後ろに踏み出し、黒いベア・ミドリフのブラウスの上のボタンを引きちぎりました。小さな鍵が、厳重に掛けられた小さな鍵穴に差し込まれるのがわかり、首輪がぱちんと外れました。
「間違いなく、別のをされるがな」
男が言い、首輪の鍵を外した男に首輪を手渡しました。
 男はわたしをじっと見ていました。
 わたしはまだハンドバッグを掴んでいました。
「離して」わたしは囁きました。「お金ならあるわ。ほら。ジュエリーも。もっとあるわ。あなたにあげる。だからお願い」
 ハンドバッグの中を手探りし、紙幣とジュエリーを男の手に押し込みました。
 男は紙幣とジュエリーを他の男に手渡しました。男が望んでいるのは、お金でもジュエリーもありませんでした。
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ゴルの虜囚 31 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン


4. 奴隷のカプセル(1)

 わたしを掴んでいる男が、立っていた場所から空き地の一方に導きました。別の男が一緒に来て、残りの男たちもそうしました。
 黄色い光がぱっと消えて、黒っぽい円形のものが空き地の草の上に、静かに着陸しました。
 まだ暗いけれど、朝までもうすぐのはずです。
 光の一つに照らされた。円盤の上部のハッチが開き、男が一人這い出てきました。その男は黒いチュニックを着ていました。空き地にいる他の男たちは、ありきたりの服装をしていました。遠くにあった光が、徐々に明度を増してゆきました。
 わたしは息をのみました。
 空き地の中央に大きくて黒っぽい姿のものがありました。デザインや外見は小さい方と特に違わないけれど、もっと大きいものです。直径が三十フィート、厚さは七・八フィートくらいだと思います。草の上に停まっていました。黒い金属でできていて、さまざまな舷窓と、ハッチの切れ目があります。わたしに面している側の、大きなドアが開きました。地面に届く道のようになり、船に荷物を積めるようにするタラップのようでした。
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ゴルの虜囚 30 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(21)

 自分がハンドバッグを握りしめていることに気づきました。車から走り出たときから、とにかく本能的に掴んでいたのです。ハンドバッグの中には、家を出る前に投げ込んだ、お金とジュエリーと肉切り包丁が入っています。体の向きを変え、暗い木々の間をがむしゃらに走りました。サンダルは脱げ、足は傷ついて切れ、ブラウスが破けました。枝が服と髪に引っかかり、鞭のようにおなかを打ち、痛くて悲鳴を上げました。別の枝が刺さり、頬がヒリヒリしました。逃げている間いつも近くを光が照らしたていたけれど、わたしを捕らえてはいません。光から逃走しても、藪と木をばらばらに引き裂いて押し込んできます。何度も照明の淵がわたしの上を照らしそうになりましたが、素通りしたり、わたしがかわしてはまた走りました。木々の間をつまずきながら、足からは血が流れ、息も絶え絶えでした。手は右手にハンドバッグを握り締めて、藪や枝をかき分けるとわたしの体に傷が付いていきました。もう走れないわ。木の根元に崩れ落ち、息もできずに体中の筋肉が悲鳴を上げました。足ががくがく震え、心臓がどきどきしていました。
 光がまたわたしのほうを向きました。
 なんとか這い上がり、光の前をが必死に走りました。
 すると林と藪の向こうのわたしの十五ヤードほど前方に、いくつか小さな光が差していて、空き地か何かのようになっていました。
 わたしは光の方に向かって走りました。
 空き地の中に激しくのめりました。
「こんばんは、ミス・ブリントン」という声がしました。
 わたしは立ち止まり、呆然としました。
 それと同時に、男の手が後ろから近づくのを感じました。
 弱々しく逃げようとしましたが、できませんでした。
 地面から照り返す黄色い光にさらされ、目を閉じました。
「ここがP地点だ」
その男が言い、その時、彼の声を思い出しました。午後にわたしの家にいた背が高い方の男の声です。彼はもうマスクはつけていませんでした。黒い髪、黒い目で、整った目鼻立ちでした。
「お前はずいぶん煩わせてくれたな」
そして男は別の男に向き直りました。
「ミス・ブリントンに足かせを持ってこい」


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訳者の言い訳と解説

 やっと第3章が終了です。ふぅ。
でも緊迫のシーンはまだまだ続きます。
頑張れエリノアたん!
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ゴルの虜囚 29 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(20)

 マセラティが大きな石にぶつかり、エンジンが止まってしまいました。荒々しく、もう一度かけようとしましたが、惨めな音がして、そしてもう一度音がしました。イグニッションキーはただ無意味に、何度もカチッと音を立てるだけ。突然黄色い光に覆われたので、叫び声を上げました。それがわたしの上に停止していました。車を捨て、暗闇の中に逃げ出しました。
 光が辺りを動きましたが、わたしを捕らえてはいません。
 わたしは林に到達しました。驚いたことに、林の中から、円盤の形をした物がマセラティの上に浮いているのが見えました。
 青みを帯びた光のようなものが、刻々とその姿態から放たれました。
 マセラティがその青っぽい光の中で小刻みに震えると、恐ろしくも、マセラティが消えてしまいました。
 わたしは木に背をもたれて立ち、手を口に当てていました。
 青っぽい光が消え、再び黄色い光に切り替えられました。
 その形のものはこちらに向きを変え、ゆっくりとわたしの方に動いてきました。
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ゴルの虜囚 28 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(19)

 ふと衝動的に、ハイウェーから通じている、何十もの小さな脇道のうちの一つに曲がって降りました。
 この道を選ぶなんて知りようがないはずです。
 追っ手は見あたりません。
 息をするのが楽になってきました。
 アクセルを踏み込む足を緩めました。
 バックミラーをちらっと見てから、振り向きました。車は一台もいないようでしたが、紛れもなく後ろには何かがあります。
 瞬間に唾も飲み込めなくなり、口の乾きを感じました。
 五、六百ヤードほど後ろに、それが妙にゆっくりと動いていました。ライトが一つ付いているようでした。そしてそのライトは、下にある道路を照らしているようで、黄色い明かりの池が進行方向に動いていました。それが近づいてきたので、悲鳴を上げました。それは音もなく動いていて、モーターの音も走る音もしません。円形で、黒くて、丸底で、小さくて、たぶん直径は七、八フィート、厚さは五フィートくらいでした。それは道路の上を動いているのではなく、道路の上空を動いていました。
 マセラティのライトを消してスピードを上げ、遠くの林地に向かって走りました。
 その物体は道のわたしが曲がったところに来て一時停止し、恐ろしいことにゆっくりと徐々にわたしの行った方向に回転しました。黄色いライトの輪で、タイヤの跡の付いた野原の草が見えました。
 ヒステリックに野原を横切り、ジグザグに進んだり曲がったりしながらアクセルを踏みました。行き止まりになってしまう、道が無くなってしまう。
 その物体はずっと、滑らかに急ぐ様子もなく、黄色い光で下を照らしてもっと近づいてきました。


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訳者の言い訳と解説

 遂に空飛ぶ円盤が現れました。
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ゴルの虜囚 27 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(18)

 窓から這い出ました。小さなスーツケースはバンガローに置いてきましたが、ハンドバッグは大事なので持ってきました。15,000ドルとジュエリーが入っています。一番大事なのは、車の鍵です。
 急いで車に乗り込みました。誰にも邪魔されないうちにエンジンをかけ、ギアを入れて加速しなければなりません。エンジンはもう暖まっているから、すぐに発車できるはずです。
 うなりを上げほとばしり、マセラティにぱっと命が灯り、石を蹴散らし後輪から土煙をあげて、バンガローの角を飛ばして走りました。
 ハイウェーの入り口で急ブレーキを踏んでから、舗装された道の分かれ目を急発進すると、タイヤの音が響き、タイヤの焼けた匂いがしました。ハイウェーを、轟音を立てて進みました。何も見えません。車のライトを点けました。何台か近づいては通り越して行きました。
 後ろには何もないようでした。
 わたしの身が安全だとは信じられないけど、追っ手はいません。
 片手で黒いベア・ミドリフのブラウスのボタンを手探りし、ボタンをかけました。それからハンドバッグから腕時計を探しだし、腕にはめました。
4時51分。
まだ暗いけれど、八月だからすぐに明るくなるでしょう。
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ゴルの虜囚 26 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(17)

 バンガローのドアは開けられていました。わたしは鍵を閉めていたのに。でも鍵は開けられ、スライド錠まで抜かれていました。ドアに駆けて行きまた鍵を閉め、体で支え、すすり泣き始めました。
 ヒステリックに服のところに走って、服を着ました。
 時間があるかもしれない。あいつらはもう立ち去ったかもしれない。あいつらがすぐそこで待っているかもしれない。わからない。
 車のキーを探してハンドバッグの中を手探りしました。
 ドアへ走りました。
 でも怖くなり、ドアをさわるのが心配になりました。すぐそこで待っているかもしれないわ。
 バンガローの奥に移動して明かりを消し、恐怖に打ち震えて闇の中で立っていました。バンガローの後ろの窓のカーテンを引き寄せると、窓の鍵はかかっていました。鍵をはずし、安心したことに、音を立てずに窓は上に開きました。周囲を眺めると、誰も見えるところにはいません。今だわ。あいつらはバンガローの前にいるのかもしれないし、いないのかもしれない。朝まで鏡のしるしを見ないと思ってるんだわ。いえ、そうじゃない。前にいるんだわ。
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ゴルの虜囚 25 【CAPTIVE OF GOR】

 → 読む前の注意
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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(16)

 シャワールームに入り、そのうちに歌っていました。
 髪にタオルを巻いて乾かすと、疲れていたけれど生き返り、とてもハッピーな気持ちでお風呂からあがりました。
 ベッドのシーツを折り返しました。
 わたしは無事よ。
 シャワーの支度をしたときに、ハンドバッグに滑り込ませた腕時計を出して見ました。
4時45分。
腕時計をハンドバッグに戻し、照明の小さな鎖を引こうとして手を伸ばしました。
 その時見えたのです。部屋の向こうの鏡が。鏡の足下に、キャップが開いたわたしの口紅が転がっていました。シャワーを浴びている間にハンドバッグから取り出されたのです。鏡の表面には口紅で書かれた、またあのしるし。同じしるし。流れるようで優美な、わたしの太ももについているしるし。
 電話を掴むと、通じていません。


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訳者の言い訳と解説

 シーツを折り返すところは、ベッドに敷くのと、
上にかけるの2枚組で使うので、上のをめくったってことです。
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ゴルの虜囚 24 【CAPTIVE OF GOR】

 → 読む前の注意
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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(15)

 いらいらして首の金属の輪を調べました。輪に刻まれた文字はもちろん読めません。文字なのかさえ判別できないし、単に流れるような模様かもしれません。でも 間隔の取り方や造形が、そうではないと物語っています。錠は小さいけれど、頑丈で、輪はぴったりとフィットしていました。
 鏡を見ていると、ある考えが頭をよぎりました。これもあのしるしみたいに、魅力的じゃないこともないわ。わたしのしなやかさをいちだんと引き立てています。でも取り外すこと はできませんでした。刹那的に、誰かの虜囚として、持ち物として所有されているのではないかと、救いようのない気持ちになりました。一瞬の空想が胸をかすめました。こんな首輪をはめられ、こんなしるしをつけられ、裸で異邦の男の腕の中にいる。体が震えました。こんな気持ちになったことはありません。
 鏡から目をそらしました。
 明日この金属の輪を外してもらおう。
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ゴルの虜囚 23 【CAPTIVE OF GOR】

 → 読む前の注意
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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(14)

 すぐにマセラティを裏に駐車していたバンガローを一晩借りました。
 荷物をバンガローに入れ、ドアの鍵を閉めました。疲れていたけれど、心の中で歌いました。自分がどんなにうまくやったかが、すごく嬉しくて。ベッドに入りたい誘惑に駆られましたが、汗をかいて汚れていたし、元々シャワーを浴びずに寝るなんて許せない気質でした。それに、洗い流したかったから。
 バスルームで、太もものしるしを確かめました。ものすごく頭に来ました。でも激怒しつつも、この流れるような、優美な尊大な物に自分が救いがたく囚われていると思いました。拳を握りしめました。傲慢が、わたしの体に刻まれています。この、傲慢さ!傲慢がわたしにしるしをつけたんだわ。それなのに、美しい。鏡で自分を見て、しるしをじっと見ました。多分そうだわ。このしるしはどういうわけか、尊大に、望もうが望むまいが、わたしの美しさを信じられないほど高めています。すごく腹が立ちました。
 そしてなぜか、男性の感触を知りたがっている自分にも気づきました。今まで男性を欲したことなどありません。腹を立ててこの考えを払いのけました。わたしはエリノア・ブリントンよ!
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ゴルの虜囚 22 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(13)

 朝の4時10分頃。
 道路から奥まったところにある、バンガローの並ぶ小さなモーテルに入りました。道路から見えない、バンガローの一つの後ろに車を止めました。わたしがここで止まるのは、誰にも予測できないことです。バンガローの近くのハイウェーの北に、レストランがあって、開いていました。お客さんはほとんど居ません。レストランの赤いネオンライトが暑く暗い夜に、ぼんやり灯っていました。一日中何も食べていないので、腹ぺこです。レストランに入り、道路から見えない仕切り席に腰を下ろしました。
「カウンターにどうぞ」
店に一人だけのボーイが言いました。
「メニューちょうだい」
味気ないパンのコールド・ローストビーフのサンドウィッチ二つと、午後から残っていたパイ一切れを食べ、小さい紙コップ入りのココアを飲みました。
 こんな時でなければ胸焼けしたでしょうが、今夜は力がわいてきました。


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訳者の言い訳と解説
朝の4時10分"頃"
イギリス人にこう言うと、
10分までわかってるんだからaboutじゃないじゃんw
とかつっこまれます。
アメリカ人はこういう言い方するんですね。知りませんでした。
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ゴルの虜囚 21 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(12)

 45分以上は、リードを延ばしたり縮められたりしながら、追っ手より先を疾走しました。一度、相手が40ヤード以内に居たとき、側道の砂利道に振り切って煽り、リードを1ヤードずつ伸ばしました。
 やつらの追跡にゾクゾクしました。かわしてやるわ!
 遂にひどく曲がりくねった道で200ヤード以上引き離し、ヘッドライトを消して林の中に入りました。この道路からの脇道がたくさんあり、曲がり道もたくさんあります。あいつらは当然わたしがどれかの道を行ったと思うでしょう。
 ライトを消したマセラティの中で、心臓をドキドキさせて座っていました。
 ほんの数秒のうちに尾行してきていた車は疾走して通りすぎ、カーブに滑り込んで行きました。
 30秒くらい待ってから、道に戻りました。数分間はライトを消して走り、道路の黄色いセンターラインを月明かりで追いました。もっと交通量の多い舗装されたハイウェーまで来てから、十分に車も走っていたのでライトを点けひたすら走り続けました。
 わたしはあいつらより一枚上手よ。
 ほぼ北の方に進み続けました。あの人たちはわたしが来た道を、南の方に帰ったと考えるはずだと思いました。同じ方向への旅路を続けているとは、想定してないでしょう。わたしがこんなに聡明だとは思ってないんだわ。でもわたしはあいつらよりずっと知性があって、緻密にやってのけるのよ!
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ゴルの虜囚 20 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(11)

 暑い夜だったけれど、勢いよく流れてゆく空気に髪がなびき、生き返った気持ちになりました。
 うまくやったわ。
 脱出したのよ!
 警察官の前を通ったので、止まるつもりでいました。助けてくれるかもしれない。守ってくれるかもしれないわ。
 でもどうかしら?あいつらは警察の制服を着ていたもの。あの警察官はわたしのことを精神異常で頭がおかしいと思って、この街に拘留するかもしれないわ。あいつらがいて待ち構えてるかもしれないじゃない。何者かも知らないし、目的もはっきりわからないのよ。あいつらはどこにいてもおかしくないわ。今は逃げなくちゃ。あいつらから、逃げるの!
 外の空気を吸うと元気がわいてきました。脱出したわ!車の流れを遠慮なくさっと縫うように走ったので、他の車はしばしば急ブレーキをかけねばならず、クラクションを鳴らしました。わたしは頭を後ろに傾けて笑いました。
 すぐに街を出て、ジョージ・ワシントン橋を渡り高速道路を北に向かいました。数分でコネティカットに入りました。
 運転しながら腕時計を滑らせました。
 その時、午前1時46分。
 心の中で歌を歌いました。
 わたしはまたエリノア・ブリントンに戻ったのよ。
 この高速道路をたどらず、交通量の少ない道を行った方が良いかもしれないと思いつきました。
 高速道路を降りたのが、午前2時7分。
 車が一台後に続いてきていました。気にしていませんでしたが、四回ほど迂回してもまだついてきます。
 不意に怖くなってきて、スピードを上げました。その車もスピードを上げました。
 苦悶の叫び声をあげました。わたしはもうエリノア・ブリントンじゃないんだわ。常に自制心があったわたし、お金持ちだったわたし、洗練されたわたし、あれほど極上の品と知性があったわたし。今はただのおびえた小娘に過ぎないんだわ。身に覚えのないことで逃げてる、うろたえて混乱した小娘。太ももに印が、首に鍵のかかった金属の輪がぴったりと付いてるんだわ。
 違う。心の中で叫びました。違うわ。わたしはエリノア・ブリントンのはずよ!わたしがエリノア・ブリントンよ!
 ふと、わたしは冷静に、速く、効率的に、鮮やかに運転し始めました。あの人たちが追ってくる気なら、もうやってるはずだわ。このちょろいゲームで、エリノア・ブリントンを見つけてないんだわ!あの人たちが何だか知らないけど、エリノアはもっと強敵ってことよ。このエリノア・ブリントンだもの。リッチですばらしいエリノア・ブリントンなんだから!


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訳者の言い訳と解説

 おかげさまで連載20回目となりました。
こんなつたない翻訳でも読んでくれてるみんな、ありがとう!

 さて、今回はエリノアが自分をお金持ちとか洗練されてるとか言っているところは、
one, she, herが使われています。
本来は、客観的評価をしているように翻訳すべき箇所だと思います。
日本人には自分を客観的に見る気質がないため表現がなじまないのと、
わたしがわたしと表現したほうが、エリノアの自惚れっぷりが出るかな、
などと言って記念すべき20回目のお茶を濁したいと思います。
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ゴルの虜囚 19 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(10)

 アパートの駐車場に入りました。
 ハンドバッグから車のキーを見つけて、大急ぎで、にこやかに係員に渡しました。
「どうかしたんですか、ブリントンさん?」
「ううん、なんでもないの」
それでもわたしを見ているようでした。
「急いでちょうだい!」
係員に頼みました。
彼はさっと帽子に手をやり、むこうに行きました。
待っている時間は何年もに感じて、心臓の鼓動を数えていました。
完璧にチューンナップされたエンジンの音が小さく聞こえ、特注のマセラティがカーブをさっと曲がってきて、係員が降りてきました。
 紙幣を握らせました。
「ありがとうございます」
 係員はうやうやしくも、気遣わしげにしていました。彼は帽子に手をやり、ドアを開けてくれました。
 わたしは顔を赤らめて、スーツケースとハンドバッグを車の中に投げ込み、係員を退けました。
 運転席に座ると、係員がドアを閉めてくれました。
 彼はこちらにかがみこんで、
「大丈夫ですか?ブリントンさん」
と訊ねてきました。
「ええ!大丈夫!」
車のギアを入れて発進するとタイヤの甲高い音だけがして、十フィートほど横滑りしました。
係員はスイッチで駐車場のシャッターを上げてくれ、わたしは道路に走り出しました。熱い八月の夜の中へ。


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訳者の言い訳と解説

 チップは"I thrust a bill in his hand."なので1ドル札だと思います。
1ドル札って訳すのとどっちが良いんだろう。
 → makoさんのご意見を参考に紙幣にしました~。


Photobucket
マセラティ1972年型(CAPTIVE OF GORの発行年)ってこんな車。
これをカスタマイズしたんだね。
色の記述はあったっけ?
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ゴルの虜囚 18 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(9)

 パイプをくわえた男が、新聞の上からこちらを見上げました。あいつらの一味?心臓が止まりそうでした。男は新聞に目を戻しました。アパートの駐車場には、ロビーを通らずに行こう。通りから駐車場に入ろう。
 わたしが出て行くのにあわせ、ドアマンが自分の帽子に手をやったので、微笑を返しました。
 外の道路に出ると、どんなに暑い夜か実感しました。
 ふとブラウスの襟に手を触れると、下から金属の輪の感触がしました。
 男が通りすがりにこちらを見ました。
 知ってるの?わたしの首に金属の輪が付いているって、わかったの?
 バカバカしい。身震いして首をふりました。
 頭を後ろに傾け、アパートの駐車場の入り口に向かう道路の歩道を、大急ぎで下って行きました。
 暑い夜でした。とても、暑い。
 男がわたしが歩いて行くのをじろじろと見るので、急いで通り過ぎました。
 数フィート行って振り返ると、まだ見ていました。
 追い払おうとして、冷たく蔑んだように一瞥をくれてやりました。
 でも男は目をそらさなくて、怖くなりました。わたしは顔を背けて急いで立ち去りました。なんで追い払えなかったの?なんであの男は目をそらさないの?なんで顔を背けないの?なんで恥ずかしそうな顔して、ばつが悪そうに、急いで顔をあっちに向けないわけ?あの男はそうしなかったわ。ずっとわたしを見てたわ。太ももにしるしがあるって知ってるの?感づいたの?あのしるしが、今までのわたしと何か微妙に違う人間にしてしまったの?あのしるしが、この世界の女とわたしを隔ててしまったの?わたしはもう男を追い払うことができないの?男を追い払うことができないって、どういうこと?この小さいしるしがわたしをどうしたの?突然自分が無力に感じて、なんだか突然、生まれて初めて自分は傷つきやすい、本質的には女なんだって感じました。よろめいて歩きました。


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訳者の言い訳と解説

最後、「よろめいて歩きました。」
I stumbled on.
実際につまづくことと、人生でのつまづきをかけている、
と思うのだが、うまく訳せないので保留。
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ゴルの虜囚 17 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(8)

 割れたドアを見ると、怖くなりました。
 壁掛け時計は、0時40分。
 玄関を通って行くのが不安になりました。包丁のことを思い出し、寝室に駆け戻って包丁を掴んでハンドバッグに押し込みました。びくびくしてパティオのテラスに走っていくと、部屋を出るのに使ったシーツで作ったロープは取り外されていました。また寝室に走って行くと、シーツはほどかれて洗濯物のように一箇所にまとめてありました。鏡を見て、立ち止まり、首の金属の輪を隠すため、黒いブラウスの襟のボタンを上まで閉めました。鏡に口紅で描かれたしるしがまた見えました。ハンドバッグと小さなスーツケースを掴み、壊れたドアを通って逃げました。ドアの外のホールにある、小さな専用エレベーターの前で立ち止まりました。
 腕時計を取りに家の中に駆け戻りました。
 真夜中の、0時42分。
バッグから出した鍵で、エレベーターの鍵を開け、共用エレベーターの並ぶ下のホールに降りて行きました。下行きのボタンを全部押しました。
エレベーターの上の階数の表示板を見ると、二基昇って来ていて、一基は七階に、もう一基は九階にいました。
この二基は呼べなかったはずなのに!
唸り声をあげました。
振り返って階段のほうに走り、階段の一番上で止まりました。鉄で補強されただだっ広い階段の上にいると、ずっと下から男が二人登ってくる音が、通路にうつろに響いてきました。
 エレベーターに戻りました。
 一基がわたしのいる二十四階に止まりました。壁に背中を押し付けて立っていました。
 男がひとりと、その妻が歩み出てきたので、息をのんでやり過ごしました。二人は怪訝そうにこちらをみていましたが、メインフロアへのボタンを押しました。
 エレベーターのドアがゆっくりと閉じると、隣のエレベーターのドアが開く音が聞こえました。ドアの隙間から、警察の制服を着た二人の男の背中が見えました。
 のろのろと、のろのろと、エレベーターは下降していきました。エレベーターが四階で止まりました。奥に立っていると、カップルが三組とアタッシュケースを持った男が一人乗ってきました。メインフロアに着くとわたしはエレベーターを逃げるように降りましたが、すぐに自制心を取り戻し、自分を確認し辺りを見回しました。ロビーには何人か座っていて、何か読んだり人を待ったりしていました。何気なくわたしを見た人も何人かいました。
 暑い夜でした。

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訳者の言い訳と解説

 ちょっとわかりにくい・・・よね。我ながらそう思う。
いずれ修正すると思います(;´Д`)
言い回しも気に入らないし。

エリノアの部屋はペントハウスなので、自分専用エレベーターで一旦24階に降りて、
共用エレベーターに乗り換えるみたいなんだな。

 エレベーターの階数の表示板って、インジケーターって言うんですけど、
原文では"dials"。
「T4 STYLES」様の「アンティークなエレベjavascript:void(0)ーター・・・」の写真にあるようなのなんだと思う。
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ゴルの虜囚 16 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(7)

 ベッドから飛び起きて、化粧台に走ると、気持ちが沈みました。もう0時30分じゃない!
心臓がどきどきします。
顔からさるぐつわをずり降ろし、口の中から大きなすっぱい詰め物の塊を取り出しました。すると突然具合が悪くなり、手足をついて崩れ落ち、じゅうたんの上に吐いてしまいました。頭を振ってから、首の周りに下ろしたさるぐつわを包丁で切りました。
 もう一度頭を振りました。
 真夜中の、0時35分。
 衣裳部屋に駆け込み、最初に触った服を掴みました。皮色のベルボトムのパンツと、黒いボタン止めのベア・ミドリフのブラウス。
 服を抱え、肩で息をしました。部屋の向こうを見ると、心臓が止まりそうでした。街の明かりでほの暗い部屋に映る影に、女が一人いました。裸で、何かを前に抱えていて、首の周りには金属の輪が付いていて、太ももには、しるし。
「イヤ!」
わたしたちは、一緒に叫びました。
 息も絶え絶えで、めまいがしました。気持ちが悪いわ。部屋の向こうの姿身に映る自分に背を向けました。
 パンツをはき、ブラウスをすばやく着て、サンダルを見つけました。
 真夜中の、0時37分。
 また衣裳部屋に戻り、小さなスーツケースを引っ張り出しました。三連チェストの足元に投げ出し、服を突っ込みバタンとスーツケースを締めました。
 ハンドバッグを掴み上げ、スーツケースを持ってリヴィングに走りました。小さな油絵の向きをぐるりと変え、壁に埋め込まれた金庫のダイヤルを手探りしました。わたしはいつも15,000ドルほどと、ジュエリーを備えておいていました。開口部でお金とジュエリーをかき集め、ハンドバッグに突っ込みました。


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訳者の言い訳と解説

・ベルボトムってところに時代を感じますね。
"CAPTIVE OF GOR"が発行されたのは1972年。
60年代中期にパリコレで発表、70年代後半まで流行ったそうです。

・ベア・ミドリフって、横隔膜までの丈の服です。
ミドリフ丈って言うと、下着を思い出しちゃうんだけど、
日本語では何て言うんだろ?やっぱりミドリフ?

・壁に埋め込まれた金庫って、つまりは「壁金庫」なんですけれど、
わたしは壁金庫ってピンとこなかったので、壁に埋め込まれた金庫にしちゃいました。
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ゴルの虜囚 15 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(6)

* * * *
 ベッドで目を覚ますと、まだ縛られたままでした。
 もう暗くなっていて、開いたパティオとテラスへのドアの向こうから、街の夜道の喧騒が聞こえました。カーテンが開いていたので、何万もの四角い窓がきらめいているのが見えました。多くの窓には、静かに照明がついていました。
 ベッドは汗でびしょ濡れでした。何時なのか見当もつかず、ただ夜としかわかりません。転がって化粧台の上の時計を見ようとしたけれど、顔は別のほうに向けられていました。縛(いまし)めに激しく抵抗しました。
逃げなくては!
 でも貴重な数分間を無駄にあがいても、午後の早いうちから縛られていたのと、完璧に同じに縛られたままでした。
 すると不意に、新たな汗が体に噴だしてきました。
 包丁!
 男たちが家に押し込んでくる前に、枕の下に包丁を投げ込んでいたのです。
 縛られたまま横に転がり、歯で咥えて枕をどけました。安堵で気絶しそうでした。包丁は置いたところにありました。
 サテンのシーツの上で包丁を動かそうと奮闘しました。歯を使ったり後頭部を使ったりして、手の縛(いまし)めのほうを向けました。痛いしイライラする作業だけれど、ちょっとずつ、ほんのちょっとずつ、包丁を下のほうに動かしました。一度包丁が床に落ちてしまい、心の中で苦悶の悲鳴をあげました。首のロープのせいでもう少しで窒息しそうになりながら、ベッドから半分外に体を滑らせ、足で包丁を探りました。足首は交差させられて、一緒にしっかりと結ばれていました。包丁を拾い上げるのは、ものすごく大変で、何度も何度も落としてしまいました。ベッドのヘッドボードにわたしを縛りつける、首の紐が忌々(いまいま)しかったです。涙が出ました。
 ずっと下の通りから、消防車のサイレンの音と、夜の街の喧騒が聞こえました。さるぐつわと縛(いまし)めに、黙ってものすごく苦しみ抵抗しました。ついに、なんとかベッドの足元に包丁を取ることができました。足と体を使い、自分の下から引き寄せることができました。
そしてやっと、縛られた手で包丁の柄を持ったのです!でも縛めには届かず、包丁は掴んだのに使うことができませんでした。
 包丁の先をベッドの後ろに押し込み、自分の体で支えられたので、心の中で歓喜の叫びをあげました。紐を上下に動かし、包丁で切り始めました。汗ばんだ背中で包丁の柄を支えました。四回滑りましたが、その都度包丁の位置を元に戻し、またこの作業に必死で取り掛かりました。両手が自由になったので、包丁を手に取り、首と足首の紐を切り落としました。


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訳者の言い訳と解説

 NYの描写が出てくるときは、意図的にハードボイルドな雰囲気が出るように訳しているつもりです。
でも、原文は別にそういうわけじゃないんだけどね^^;
大好きな翻訳家の淡路瑛一が訳した、"カート・キャノン"シリーズへのオマージュです。
 John Normanはご高齢でずっと本が出ていませんから、
ゴルシリーズは完結しないかもしれないと思っています。
もしそうなったら、淡路瑛一がカート・キャノンの贋作を書いたように、
最終的にはわたしが続編を書こうと目論んでいます。
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ゴルの虜囚 14 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(5)

 背の高いほうの男の声がドアの向こうから聞こえましたが、とても、遠くからに感じました。
小さいほうの男がわたしのそばを離れ、背の高いほうの男が部屋に入ってきたので、彼のほうにか弱く顔を向けて見つめました。警察の制服を着ている二人の男は、小さいほうの男のあとへ続き家を出て行きました。家を出るときに頭からマスクを引き剥がしていましたが、顔は見ませんでした。
背の高いほうの男はわたしを見下ろし、わたしはほとんど意識を失いながら、弱々しく男を見上げていました。
 男は事務的に話しかけてきました。
「我々は深夜になったら戻る」
さるぐつわと薬に抗い、かすかにしゃべろうとしましたが、ただ眠くなりました。
「お前の身に何が起こるか知りたいか?」
男が訊ねるのでうなずきました。
「好奇心はカジュラにふさわしくない」
何を言っているのかわかりませんでした。
「それを理由にぶたれることもある」
理解できません。
「簡単に言えば、我々は深夜に戻ってくるということだ」
マスクの口の穴から、男が唇をゆがめ笑っているのがわかりました。目も、笑っているようでした。
「その時にまた薬を打つ」
男の前でベッドの上に縛られ繋がれたわたしを見下ろし、
「そしてお前は船の積荷になる」
そう言って部屋を出て行きました。
わたしを縛り付ける紐を引っ張りましたが、意識を失ってしまいました。
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ゴルの虜囚 13 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(4)

気が遠くなってゆきました。
男はわたしに向かってかがみこみ、眉間にタバコの煙を吹きかけました。
惨めに顔を背けると、
「欲しいでしょう?」
 わたしは首を振りました。イヤ、イヤ!
 男はわたしのあごを掴んで彼のほうを向かせたので、また顔を突き合せなければなりませんでした。
獰猛に見上げると、
「君は何をされるのか知りませんよね、可愛いメス犬ちゃん」
と男が言いました。
「君は生まれて初めて、君があるべき姿になり、そしてそう扱われるのに値するだけの扱いをされるんですよ」
この男が何を言っているのか、さっぱりわかりません。
意識が薄れ始めました。男はもう一度ゆっくりじわじわとわたしのほうにかがみ、タバコの煙を眉間に吹きかけました。
 目が沁みて、息も絶え絶えになりました。顔をつかまれたまま、背けることもできません。弱々しく縛(いまし)めに抵抗し、意識を保とうとしました。
「そうだ、あばずれちゃん」男が囁きました。「君はそのために腹ばいと懇願をするんだよ」


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訳者の言い訳と解説

 小さい男は穏やかでありつつ、
 ねちっこいキャラになるようなセリフまわしにしたんだけど、
雰囲気は出てるかな?

 ノーマンはwildlyって言葉が好きらしく、
何度も出てきすぎてやりにくい^^;

 bitchとかslutって、意外とぴったりくる日本語がない・・・・・・。
クソアマとかあばずれ女、なんて言葉使う日本人見たことないし。
これぞ!という表現をご存知のかたは教えてください^^
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ゴルの虜囚 12 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(3)

 背の高いほうの男は部屋を出て行き、小さいほうの男はぐずぐず理由をつけて部屋に残りました。男はナイトテーブルへ行き、わたしのタバコを一本取り、パリ製の小さくて上品なマッチで火をつけました。
 マッチを灰皿に放り込むと、今度は親しげにわたしに触ってきましたが、悲鳴は上げられませんでした。
 身をくねらせると、男はにやりと笑いました。
「君は冷たい女ではないな。鈍いふりをしていても、君は縛られた、ふしだらな女だ。新しい状況に順応したら、どんな風になるだろうね」
何を言っているのか理解できませんでした。
「君は見込みがある。今だってちゃんと反応したなら、それなりの値打ちがあると思うね」
わたしは男を見上げました。
「それにいずれは」男が言いました。「保証しよう。君は哀れっぽくお願いするさ。そのために腹ばいと懇願をする」
 この人は頭がおかしいのだと思いました。
 でもわたしは思い知ることになるのです。そうではないと。
「そう。そのために君は腹ばいと懇願を学ぶんだよ、あばずれちゃん」
男は狂っているわけではありませんでした。
「首輪が似合っていますよ」
わたしはもがきました。
「君は首輪にふさわしい」
わたしはむなしく縛(いまし)めを引っ張りましたが、無駄な努力でした。男を見上げると、
「何か言いたいんだね。でも駄目だ。縛られてさるぐつわをされるのは気に入ったかな?」
男が訊ねました。
私はすすり泣いて抗議しました。
男はまた手をあげ、こちらに手を伸ばしたので、わたしはぶんぶん頭を振りました。イヤ、イヤ、やめて!
でも男はわたしには触れず、
「おもしろいね。縛ってさるぐつわをすると、女にはてきめんだな」


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訳者の言い訳と解説

 どう訳そうか一番悩んだところは、
「君は冷たい女ではないな。鈍いふりをしていても、君は縛られた、ふしだらな女だ」
"You aren't the cold,~"
でした。coldは不感症の意味で使ってるんだと思うけど、
エリノアは何言ってんのかワカンネ
と思うわけなので、不感症じゃ直接的すぎるし、
冷感症は現代の一般的な言葉ではない。
「音楽が聞こえないわけじゃないな」なんて、
三島由紀夫風もオツだけど、原文から離れすぎる。
結局シンプルに、冷たい女にしてみました。
こういうところに力量が出ちゃうんだね;;
意外といろいろ考えて言葉を選んでるんだよ。
そのわりに誤字脱字が多いけど。ぐほっ。
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ゴルの虜囚 11 【CAPTIVE OF GOR】

 → 読む前の注意
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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(2)

 部屋は荒らされていませんでした。絵は壁にかけられたまま、東洋のじゅうたんも床にしかれたまま、何も手を付けられていません。
 背を向けたほうの男が格下のようでした。その男がジャケットの内ポケットから革のケースを出し、万年筆のようなものを取り出しました。それをねじって開けたのを見てぎょっとしました。注射器です。
 やめて!わたしはめちゃくちゃに首を振りました。
 男はわたしの背中のウエストと腰の間に、針を刺しました。
 痛かったけれど、具合が悪くなるような感じはありませんでした
 男は注射器をケースに入れ、ジャケットの内ポケットに戻しました。
 背が高いほうの男が自分の腕時計を見て、注射器を持っていた小さい男のほうに、今度は英語で話しました。背が高いほうの男にはアクセントに訛りがありましたが、どこの訛りかはわかりませんでした。
「真夜中過ぎに戻る。今度はもっと楽だ。交通量が少ないから五時間でP地点に着くだろう。わたしは今夜別の仕事に立ち会わなくてはならないのだ」
「わかりました。では準備します」
小さいほうの男が答えました。返事にはこれっぽっちも訛りはなく、この男の母国語は英語に間違いないと思いました。他の男たちが話している言葉についていくのに難儀しているようでした。でも他の男たちが小さいほうの男に話しかけるときは簡略に、聞いたこともない言葉を話していました。小さいほうの男は即座に従っていて、背が高いほうの男を畏怖しているように思えました。
 部屋の隅で、暗闇が少し広がってきました。
 段々暗く、暖かくなっていくように感じましたが、目をつぶらないようにしました。
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ゴルの虜囚 10 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

3. 絹の紐(1)

 身じろぎできず、頭を揺さぶりました。これは悪い夢だわ。
「イヤ、イヤよ」
そうつぶやいて身をよじり、目が覚めれば良いと思いました。
「イヤ、イヤよ」
 なんだか思うように動けないみたい。こんなの気に入らない。不愉快だわ。頭にくる。
 すると突然目が覚めたので、叫び声を上げましたが声になりませんでした。
 真っ直ぐに座ろうとしたけれど、危うく窒息しそうになり後ろに倒れてしまい、激しくもがきました。
「女が目を覚ました」
声がしました。マスクをした二人の男がベッドの裾に立ってこちらを見ていて、あと二人がリヴィングで話をしているのが聞こえました。
 ベッドの裾に立っている二人は振り返って部屋を出て、リヴィングにいるほかの人たちのところへ行きました。
 わたしは猛烈にもがきました。
 両足首を一緒に軽い絹の紐で縛られ、両手首も同じように後ろ手に縛られていました。首も絹の紐を輪にしてしっかり結び付けられ、ベッドのヘッドボードに縛ってありました。
 鏡に映る自分の姿が見えました。口紅で描かれた奇妙なしるしは、鏡の表面にそのままです。
 もう一度悲鳴を上げようとしたけれど、声が出ません。鏡に映るわたしの目は、さるぐつわの上で半狂乱になっていました。
 もがき続けているとすぐに、男たちが戻ってくる音がしたので、動きを止めました。開いたドアから、警察の制服を着た二人の男の背中が見えましたが、顔は見えません。マスクをした二人の男が部屋に戻ってきて、わたしを監視しました。
 許しを請いたかったけれど、声を上げられませんでした。
 足を体に引き寄せて体を横にし、できるだけ自分をかばいました。
 片方の男がわたしに手を触れると、もう一人が険しい声を短く発したので、手を触れたほうの男は背を向けました。間違いなく否定する単語のようでしたが、知らない言葉でした。
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ゴルの虜囚 9 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

2. 首輪(4)

 寝室に駆け込んでざっとあたりを見回し、慌ててリネン入れからシーツをまとめてわしづかみにしました。テラスに走り、桟の向こうを見ると気持ちが悪くなりましたが、15フィートほど下には小さなテラスがあります。この建物にはいくつも出っ張りがあり、そのひとつが下の階に通じています。太陽の光の中、灰とすすのかけらが降り注ぐ外の空気が目にしみました。シーツで作ったロープの端を、パティオとテラスを囲む腰の高さの壁の、小さな鉄の手すりにしっかり結び付け、もう片方を下の小さなテラスに注意深く降ろしました。あんなに怖かったことはないし、あんなに勇気がいることもないでしょう。
 ドアがまた苛立ちを含んだ音でノックされはじめました。
 何か着ようと寝室に戻ったとき、重いドアに体当たりする音が聞こえました。
 パティオを見ました。シーツのロープを両手で降りなければならないので、ナイフは持って行けません。口にくわえて運べば良かったのですが、パニックに陥っていたので思いつきませんでした。ちょうつがいと鍵からドアが外れ、ドアが破られそうな音が寝室まで聞こえました。包丁を枕の下にぎゅっと押し込み、パティオに駆け戻りました。恐ろしいので下は見ず、シーツで作ったロープをしっかり掴みました。息もできないほど胃がむかむかします。手を交互に動かして降りて行きました。桟を越え体が見えなくなったとき、ドアが完全に破られ、男たちが部屋に入ってくる音が聞こえました。下のテラスまでほんの15フィートほど降りれば大丈夫だわ。下の階の人の注意を引くか、必要であれば椅子か何か、とにかく見つけたもので、窓ガラスを割って入れば良い。
 上のわたしの部屋から怒号が聞こえました。
 ずっと下の通りの喧騒は聞こえませんでした。下を見る勇気もありません。
 びくびくしながら、少しずつ降りて行きました。
 頼りなく空中にぶらさがり、ぴんと張ったねじった揺れるシーツを掴むわたしの体に、風が強く吹き付けました。
 下から往来の音、車のクラクションが遥か遠くからのように聞こえました。
確実に、下のテラスに降りて行っているだけのことよ。うまくやっているわ。
上の手すりの結び目が、少しゆるくなったので、悲痛な叫び声を上げ、シーツをもっと強く、更にみじめにしがみつきました。
下のベランダはまだなの?
更に降りていきました。
もう一歩。
下のテラスの腰の高さの壁の手すりに向かって足を伸ばそうとして、少し勇気を出して足を動かしました。
体がレンガの壁にぶつかりました。
もうすぐシーツを握る力も尽きてしまうかもしれません。
手すりはどこなの!
シーツを掴んで身をよじりました。
下のテラスはまだ通り過ぎてないことは確かだし、体が回転したから後ろにあるはずだわ。
シーツが届かなくても、登って戻る体力はありません。
上を見上げると、シーツを結びつけた自分の部屋のテラスの手すりが見えました。
また体が壁にぶつかりました。
どこにも届かないし、しがみつく所もありません。
一歩、また一歩と体を下ろしていきました。
手すりはどこなの!
そのとき、腰の高さの壁の手すりの感触がありました。また身をよじり、片足を降ろしました。手すりの内側、壁の内側にいるんだわ!
テラスのタイルに足がついた感触がありました。
体が崩れ落ちそうだったけれど、嬉しくて歓声を上げました。
あいつらを出し抜いてやったわ!
エリノア・ブリントンの機知に敵うと思った?
バカじゃないの?
わたしは無事よ!

何か柔らかくて、折りたたまれた白いものが頭の上から目の前にすべり落ちてきて、口の奥まで押し込まれました。折りたたまれた布切れがもう一枚頭の上から落ちてきて首の後ろにきつく結ばれ、叫ぼうとしたけれど、声が出ませんでした。
「女を捕獲した」
という声が聞こえました。

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訳者の言い訳と解説
 今回は非常に緊迫したシーンにも関わらず、形容詞・副詞がどっちに係るかわからなかったり、
うまく日本語にできないところが多くて、自分でもガタガタだと思います。
でも今のわたしの力量じゃこれが精一杯なので、
いずれ大幅に改訂するつもりです。

・15フィート=約4.57m
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ゴルの虜囚 8 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

2. 首輪(3)

  リヴィングから見えるキッチンに駆け込み、引き出しを開け、肉切り包丁を取り出しました。
包丁を手にし、荒々しく調理台の裏に回り込みましたが、何もありません。包丁を持つと少し不安が薄れ、リヴィングのテーブルの端の電話に向かいました。コードが切断されているのを見て、天を呪う気持ちでした。
  家を調べるとドアには鍵がかかっているし、家にも、パティオにも、テラスにも誰もいませんでした。
  心臓の鼓動は激しかったけれど、気持ちが高揚していました。
服を着て家を出て、警察に行くつもりで衣裳部屋に急ぎました。
  ちょうど衣裳部屋まで行ったとき、力強くきびきびとドアがノックされたので、
包丁をぎゅっと握り締めて振り向きました。ノックは執拗に繰り返されています。
「ドアを開けなさい」と命ずる声がしました。「警察だ」
  危うく気を失いそうになりながら、包丁を持ったままドアに駆け寄りました。
包丁を握り締め、ドアの前で怖くなって立ち止まりました。
  わたしは、警察なんて呼んでない。この部屋で悲鳴を上げて、誰かに聞こえるなんてありえません。
電話は壊されていたし、誰かに助けを求めてもいない。ただひたすら、逃げたかっただけです。
  ドアの向こうにいるのが誰であれ、警察のはずがありません。
  またノックが繰り返され、頭がくらくらしました。
  そのうちノックの音が大きくなり、
「ドアを開けなさい!ドアを開けなさい!警察だ!」
「ちょっと待って」
気持ちを落ち着かせ、できるだけ平静を装って答えました。
「すぐ開けます。着替え中なんです」
ノックが止み、
「わかった。早くしなさい」という声がしました。
「はい」
冷や汗をかきながらも、愛想良く返事をしました。
「ちょっと待って!」


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解説
パティオとテラスって、建築用語だと思うけど、
一般的に使われてるのかな?

・パティオ スペイン風の中庭で、床はタイル張りのことが多い。(写真:by Wikipedia)
・テラス 日本語では通常1階に作られるものはテラス、
2階以上に作られるものがベランダ・バルコニー。
エリノアの部屋は最上階です。
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ゴルの虜囚 7 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

2.首輪(2)

 心臓が止まりそうでした。
 部屋の中を見回すと、誰もいません。
 ベッドの脇のナイトテーブルに置いてある電話のところまで、這って行きました。慎重に受話器を上げても、少しも音がしません。電話の発信音はせず、コードがだらりとぶら下がっていました。目に涙がこみ上げてきました。
 リヴィングに電話がもう1台ありましたが、ドアの向こう側です。ドアを開けるのが怖くて、バスルームのほうをちらっと見ましたが、そっちも中に何があるかわかりません。怖いのは同じでした。
 小型のリヴォルヴァーを持っていましたが、撃ったことはありません。だだそのことだけを考え、跳ね起きて部屋の脇にある三連チェストに飛びつきました。引き出しの中のスカーフとスリップの下に手を突っ込むと、ハンドルの手ごたえがあったったので、歓喜の声を上げたのもつかのま、信じられない思いで銃を見ました。泣くこともうめくこともできませんでした。ただ、何が起きているのかわかりませんでした。銃は形なく金属の塊になっていました。鉄のチョコレートの溶けたかけらのように。引き出しに放り投げて戻してから、立ち上がり茫然と鏡に映る無防備な自分の姿を見つめました。ただ恐怖という言葉では言い表せません。
 この国の言葉では、容易に説明できないほどのことがわたしの身に起きていると感じ取り、怖くなりました。
 寝室の大きな窓にかかるカーテンを乱暴に開けて街を見渡すと、汚れたガスが深く漂い、太陽の光に照らされ黄金色に輝いていました。
幻想的な黄金色の霞の中で、光を反射する幾千もの窓。
レンガ造りの大きな壁、鉄筋コンクリート、ガラス。
現実だわ。
佇むわたしに、汚れた厚いガラス越しに光が差し込んでいました。
現実だわ!
それなのに窓に映る裸のわたしの首には、外すことのできない鉄の輪がはめられ、太ももにはしるしが付けられているのです。
「イヤよ!イヤ!」
心の中で叫び声をあげました。
 窓に背を向け、足音を忍ばせて少し空いているリヴィングのドアのほうに進み、勇気を振り絞り、ドアをもう少し開けました。誰もいないことにほっとして、気が遠くなりそうでした。
リヴィングは、すべてが昨日のままです。
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ゴルの虜囚 6 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

2.首輪(1)

 鏡の前の厚いじゅうたんの上に、どのくらいの間倒れていたかわかりません。
 カーテン越しに見える太陽の位置からすると、1時間以上でしょう。
 両手をついて体を起こし、ひざまずいて鏡を覗き込みました。
 頭を抱えて首を横に振り、狂ったように叫びました。
 首に巻かれた輪をしかっかりつかみ、もぎ取ろうとしました。気を失っている間に首輪をはめられていたのです。
 首の周りにぴったりとついた金属の輪は、優美にきらりと光っていました。
 頭を働かせ、単純にうしろに手を回し留め金を外して首から取ろうとしました。手探りしても留め金はありません。首とほとんど隙間もなかったので、ゆっくり慎重に輪を回し、鏡を見て調べました。留め金はありません。ただ、しっかり錠のかけられた小さな鍵穴らしきところがあるだけでした。のどのところで鍵がかけられていたのです!輪には何か刻まれていましたが、知らない文字で読めませんでした。
 また部屋が暗くなっていくような気がして、くらくらしましたが必死で意識を保とうとしました。
 首輪をつけるために誰かがわたしの部屋に来て、まだここにいるかもしれない。
 顔を下ろすと、髪がじゅうたんに、手に、ひざにかかりました。頭を振って、じゅうたんの毛を引きちぎりました。
 意識を失っちゃいけない。理性を失っちゃいけない。
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ゴルの虜囚 5 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

1. 焼印(5)

 月曜日の午後に仕事があって、水曜日の朝にスタジオに報告することになっていたので、火曜日は仕事が休みでした。夜になる前に有色人種のメイドを帰し、水曜日の分まで料理を作りました。家で1人で読書をして、音楽を聴きたくて。
 月曜日の深夜に眠りにつきました。
 もう昼近くまで、裸で白いサテンのシーツにくるまって眠っていましたが、カーテンを通して差し込む太陽の光で目を覚まし、伸びをしました。
暖かくて、けだるい、けだるい日。
ベッドのそばのナイトテーブルにある灰皿に手を伸ばし、タバコに火をつけました。部屋にいつもと違う所はなく、ふわふわのコアラのぬいぐるみがベッドの足元に転がり、本は机の上に。ランプシェードは昨日と同じように少し傾き、化粧台の上には合わせなかった目覚まし時計。タバコは味がしなかったけど、吸いたいと思いました。シーツの上にもう一度横たわり、また伸びをしてから足をベッドのわきに下ろし、スリッパを履きました。シルクのガウンをはおり、タバコを灰皿に突っ込んで揉み消して、シャワーを浴びにバスルームに向かいました。
 髪を結い上げて、ガウンを肌からすべり落とし、シャワールームのドアを開けて中に入りました。暖かいシャワーに、すぐにゆったりした気分を味わいました。
良い日だわ。
暖かくて、けだるい、けだるい日。
 しばらく頭を傾け、目を閉じてたたずんでいると、暖かいお湯が体じゅうにしたたりました。せっけんを手に取り、体を洗い始めました。
 せっけんを持つ指が左の太ももに触れたとき、はっとしました。何かがある。触れたことのない何かが。
 左側に体を曲げ、左足を真っ直ぐに伸ばしました。
 突然目の前が真っ暗になり、息もできないまま、恐る恐る太ももを見ました。
 痛みは感じません。
 でも昨日の夜まではなかったわ!
  でも今、太ももの上のほうにしるしがついています。1インチ半くらいで、優美な筆記体でした。なかなか魅力的ではあります。自然につくような傷あとではあ りません。深く誤りなく完璧に施されたものです。慎重に、正確につけられたしるしでした。あえぎながら、もたれかかっている壁の感触を感じていました。呆 然としてせっけんの泡を洗い落とし、シャワーをとめました。バスルームをあとにし、部屋のわきの全身が写る鏡の前のじゅうたんを、濡れた体のまま裸足で歩 きました。そこでまた息をのみ、部屋がぐるぐる回っているような気がしました。知らないうちに、鏡にしるしがあったのです。わたしのいちばん赤い口紅で鏡 に書かれていました。1フィートくらいの高さで、太ももにある優美な筆記体と同じしるしでした。
 信じられない思いで鏡を見て、太もものしるしにもう一度触れてみました。そしてまた鏡の表面に口紅で書かれた赤いしるしを見ました。じっと自分を見つめていました。
 全然わけがわからないけれど、とにかく誤りなくきれいに深く刻み込まれたしるしが太ももについていました。
 すべてが真っ黒になって、鏡の前のじゅうたんに崩れ落ち、気が遠くなってゆきました。

 わたしは、焼印を押されていたのです。
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ゴルの虜囚 4 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

1. 焼印(4)

 数日後、希望どおり2つのモデルエージェンシーで、ほんの形式的な面接を受けました。疑いなくモデルにふさわしい、きれいな女性が大勢いました。数千万の人口で、美人を見つけること自体は難しくはありません。だからこのような競争社会では、特に未経験者は抜きん出た美しさや魅力、身のこなしで最初のチャンスが決まるのです。わたしの場合そうでした。もちろん、実力を伴って成功したと思っています。もっとも、その必要はなかったのですけれど。
 数週間も続けられなかったけれど、モデルとしてのキャリアは楽しかったです。服を楽しみ、きれいに着こなしました。つらいときも疲れているときも、喜んでポーズを取りました。カメラマンや芸術家はぶっきらぼうなときもあるけれど、知性的でウィットに富んでいて、とてもプロフェッショナルです。ある人は一度わたしをビッチと呼んだので、笑ってしまいました。仕事は多忙でした。
 いちばん稼げる仕事は名の知れた会社の水着の新作発表のモデルで、会社の名前は、そんなことはこの話をする目的と関係ないわね。
 でもその仕事はやりませんでした。
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ゴルの虜囚 3 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

1. 焼印(3)

 父はシカゴで不動産で財産を作りました。わたしが知る限り仕事だけを気にかける人で、キスをしてもらった覚えがありません。わたしの前で母に触れたことがあるのか、母が父に触れたことがあるのかも、思い出せません。父はお金儲けにも興味がなかったはずです。事実、どんなに他の人より稼いでも、もっと裕福な誰かがいるのです。父は幸せじゃなくて、追い立てられているような人でした。
 母は海岸に広大な所有地を持つシカゴの裕福な家の出身です。家でパーティーをたびたび開いていました。父は母がいちばん値打ちのある財産だと一度言ったことがあります。褒めたつもりでしょう。母はきれいな人でした。飼っていたプードルを、靴をかじったからと毒で殺してしまいました。そのときわたしは7歳で、ひどく泣きました。わたしに懐いていたのに。卒業式に父も母も来てくれず、それが人生で2回目に泣いたときです。父は仕事の契約があり、母は住んでいるニューヨークで友人と会食をしていました。母はカードと高価な腕時計を送ってくれたけど、腕時計は誰かにあげてしまいました。
 ある夏に父はまだ40代なのに心臓発作で亡くなりました。
母は今でもニューヨークのパーク・アヴェニューにある広いアパートに住んでいると思います。土地のほとんどは母が相続し、わたしが受け取ったのは75万ドル、主に市場で大きく変動することもある株や債権でしたが、手堅いものでした。その日の資産が50万ドルでも75万ドルでも、それほど興味はありませんでした。
 卒業後、わたしはパーク・アヴェニューにある最上階の部屋を借り、母とはお互いに会わず、しばらく何にも興味を持ちませんでした。嫌いなのにタバコをたくさん吸いました。お酒もかなり飲みましたが、ドラッグはくだらないので、けっして手を出しませんでした。
 父はニューヨークで仕事上のコネがたくさんありましたから、母は友人たちに影響力がありました。わたしはモデルになることばかり考えていて、卒業後数週間は母にはほとんど電話をしませんでした。刺激があって、おもしろくて楽しい人たちに出会えるんだろうと考えていました。
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ゴルの虜囚 2 【CAPTIVE OF GOR】

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ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

1. 焼印(2)

 ある学生が春に学校を辞めました。もったいないと思うけれど、彼女はそのほうが良いとわかっていたのでしょう。わたしはお金持ちでしたから友達を作るのは難しくなかったし、とても人気がありました。でも話ができた人をひとりも思い出せません。休日はヨーロッパで過ごすほうがマシでした。
 上等な服を着る余裕もあったので、そうしていました。髪型も思いどおり、いっけん無造作なようでいちばん魅力的に見えるようにしていました。小さなリボン、アクセサリーの色、上品な色合いの高級な口紅、スカートの縫い目、高級な革の外国製のベルトと調和の取れた靴、安物はありません。期限の過ぎたレポートの提出日延長をお願いするときは、すり減ったローファー、ブルージーンズにスウェットシャツ、髪にリボンを身に着けました。そんなときには、タイプライターのインクのしみを頬と指にちょっと付けて。いくらでも期限を延長しもらえました。もちろん、自分でタイプを打つことはなかったけれど。でも、買うより良くできるのが嬉しくて、いつもレポートは自分で書きました。ある午後の日に提出期限を延期してくれた教師は、その夜にリンカーン・センターでの室内楽演奏会で、わたしのちょっとうしろに座っていたのに、わたしとわかりませんでした。休憩時間に一度いぶかしげにこっちを見て、話しかけようとしました。彼を冷ややかに一瞥すると、赤い顔をそむけてしまいました。私は黒い服を着て、髪をアップに結い上げ、真珠をつけて、白い手袋をはめていました。先生にはわたしをもう一度見る勇気はありませんでした。
 いつ気が付いたかわかりません。ニューヨークの通りか、ロンドンの歩道か、パリのカフェだったかもしれません。リヴィエラで日光浴をしていたときかもしれません。大学のキャンパスでだったかもしれません。どこかで、知らないうち気づいて習得したのでしょう。
 裕福で美しい、そのつもりで振舞ってきました。他の人より恵まれていると思っていたし、実際そのとおりでしたから、態度に出すこともためらいませんでした。おもしろいことに、個人的な感情はどうあれほとんどの人は、怒るわけでもなく少しわたしを怖がっているような印象でした。みんなわたしが見せかけた大げさな価値をそのまま受け入れたのです。わたしを喜ばせようとするのです。怒ったり不機嫌なふりをしてふくれたり、そのあとほほえんで許してみせたりしておもしろがっていました。みんなそれで喜んでいました。
どんなに軽蔑したか。どんなに利用したか!退屈な人たち。わたしはお金持ちで、幸運で美しいのに、あの人たちには何もないんだもの。
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ゴルの虜囚 1 【CAPTIVE OF GOR】

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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

1. 焼印(1)

 この手記は、わたしのご主人様の命令で書いたものです。
ご主人様はカル港のボスク。偉大な商人で、かつては戦士だったのではないかと思います。
 わたしの名はエリノア・ブリントン、でした。独立して優雅に暮らしていました。
 わからないことがたくさんあります。この体験談を通して、みなさんにどういうことなのかわかっていただきたいのです。
この話は珍しくも不思議でもない、起こりうることだと思います。
 地球の基準なら、わたしはとても美人でしょう。でもこの世界では金貨15枚の女です。きれいなほうだけれど、はるかにしのぐとびきりの美女が大勢いて、ただうらやむばかりです。
  わたしはボスク屋敷の炊事場用に買われました。訓練は、この世界と地球との間の奴隷の貿易ルートを持つ商人に受けました。商品の中でもとりわけ女は、捕獲されこの奇妙な世界の市場に連れて来られるのです。もし美人で有望なら、あなたにもそういうことが起こるかもしれません。
 この世界の人はやりたいならきっとやるでしょう。
 それでも、男へのご褒美にこの世界に連れて来られるよりも辛い運命が、女の身に降りかかることがあるかもしれないと思います。

  ご主人様は、この世界について詳しくは教えてくださいませんでした。理由はわかりませんが、知ろうとは思いません。わたしの身に何が起こったのかは、だいたい話してくださいました。そして、わたしが考えたこと、とりわけ感じたことを書き留めて置くようにとおっしゃいました。わたしもそうしたいのです。もっとも、望まなくても従わなければならないのですけれど。

 これだけでじゅうぶんでしょうけど、わたしの生い立ちや境遇を少し書きます。
  ちゃんと教養を身につけたかは別として、贅沢な教育を受けてきました。寄宿学校のあとはアメリカ北東部の優秀な女子大学で、何年も孤独に耐えました。今のわたしにはその月日は不思議と空虚で、つまらなくさえあるのです。良い成績を取るのも難しくありませんでした。知性に優れていたらしく、わたしにしては出来が悪いものでさえ高く評価されるほどで、社交クラブのようなものでした。両親は裕福で、卒業するまで学校へも大学へもたびたび多額の寄付をしました。
  わたしをちやほやしない男はいなかったし、教師たちもそうで、本当に熱心に機嫌をとっているようでした。フランス語の単位を1つ落としたときの教師は女性でした。学長はいつものようにその評価を受け付けず、わたしはもうひとりの男性教師と小テストを受け、当然成績の評価はAになりました。
 学長、教師たち、その他のみんなのことを、ときどき慰みに思い出します。
 どんなにわたしを喜ばせようと努力したことでしょう!
 地球の男たちのことを思い出すわ!
 どんなに男たちは女を喜ばせようと努力したことでしょう!
 それで女が男を尊敬するとでも思ったの?
 今になって思い出すと、くやしくて笑ってしまいます。
 ここではなにもかも逆で、わたしのような女性には完全に逆なのです。ここではわたしたち女性は、必死になって努力に努力を重ねなければならないのです。男を喜ばせるために。男───<ご主人様>を。
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ゴルの虜囚 目次 【CAPTIVE OF GOR】

第1章. 焼印
 ゴルの虜囚 1 【CAPTIVE OF GOR】 焼印(1)
 ゴルの虜囚 2 【CAPTIVE OF GOR】 焼印(2)
 ゴルの虜囚 3 【CAPTIVE OF GOR】 焼印(3)
 ゴルの虜囚 4 【CAPTIVE OF GOR】 焼印(4)
 ゴルの虜囚 5 【CAPTIVE OF GOR】 焼印(5)

第2章. 首輪
 ゴルの虜囚 6 【CAPTIVE OF GOR】 首輪(1)
 ゴルの虜囚 7 【CAPTIVE OF GOR】 首輪(2)
 ゴルの虜囚 8 【CAPTIVE OF GOR】 首輪(3)
 ゴルの虜囚 9 【CAPTIVE OF GOR】 首輪(4)

第3章. 絹の紐
 ゴルの虜囚 10 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(1)
 ゴルの虜囚 11 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(2)
 ゴルの虜囚 12 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(3)
 ゴルの虜囚 13 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(4)
 ゴルの虜囚 14 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(5)
 ゴルの虜囚 15 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(6)
 ゴルの虜囚 16 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(7)
 ゴルの虜囚 17 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(8)
 ゴルの虜囚 18 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(9)
 ゴルの虜囚 19 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(10)
 ゴルの虜囚 20 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(11)
 ゴルの虜囚 21 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(12)
 ゴルの虜囚 22 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(13)
 ゴルの虜囚 23 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(14)
 ゴルの虜囚 24 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(15)
 ゴルの虜囚 25 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(16)
 ゴルの虜囚 26 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(17)
 ゴルの虜囚 27 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(18)
 ゴルの虜囚 28 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(19)
 ゴルの虜囚 29 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(20)
 ゴルの虜囚 30 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(21)

第4章. 奴隷のカプセル
 ゴルの虜囚 31 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷のカプセル(1)
 ゴルの虜囚 32 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷のカプセル(2)
 ゴルの虜囚 33 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷のカプセル(3)
 ゴルの虜囚 34 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷のカプセル(4)
 ゴルの虜囚 35 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷のカプセル(5)
 ゴルの虜囚 36 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷のカプセル(6)
 ゴルの虜囚 37 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷のカプセル(7)
 ゴルの虜囚 38 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷のカプセル(8)
 ゴルの虜囚 39 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷のカプセル(9)
 ゴルの虜囚 40 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷のカプセル(10)
 ゴルの虜囚 41 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷のカプセル(11)
 ゴルの虜囚 42 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷のカプセル(12)

第5章.三つの月
 ゴルの虜囚 43 【CAPTIVE OF GOR】 三つの月(1)
 ゴルの虜囚 44 【CAPTIVE OF GOR】 三つの月(2)
 ゴルの虜囚 45 【CAPTIVE OF GOR】 三つの月(3)
 ゴルの虜囚 46 【CAPTIVE OF GOR】 三つの月(4)
 ゴルの虜囚 47 【CAPTIVE OF GOR】 三つの月(5)
 ゴルの虜囚 48 【CAPTIVE OF GOR】 三つの月(6)
 ゴルの虜囚 49 【CAPTIVE OF GOR】 三つの月(7)
 ゴルの虜囚 50 【CAPTIVE OF GOR】 三つの月(8)

第6章.奴隷商ターゴとの邂逅
 ゴルの虜囚 51 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(1)
 ゴルの虜囚 52 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(2)
 ゴルの虜囚 53 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(3)
 ゴルの虜囚 54 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(4)
 ゴルの虜囚 55 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(5)
 ゴルの虜囚 56 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(6)
 ゴルの虜囚 57 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(7)
 ゴルの虜囚 58 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(8)
 ゴルの虜囚 59 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(9)
 ゴルの虜囚 60 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(10)
 ゴルの虜囚 61 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(11)
 ゴルの虜囚 62 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(12)
 ゴルの虜囚 63 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(13)
 ゴルの虜囚 64 【CAPTIVE OF GOR】 奴隷商ターゴとの邂逅(14)


第7章. 他者と供に、北へ連れて行かれる

 ゴルの虜囚 65 【CAPTIVE OF GOR】 他者と供に、北へ連れて行かれる(1)
 ゴルの虜囚 66 【CAPTIVE OF GOR】 他者と供に、北へ連れて行かれる(2)
 ゴルの虜囚 67 【CAPTIVE OF GOR】 他者と供に、北へ連れてゆかれる(3)
 ゴルの虜囚 68 【CAPTIVE OF GOR】 他者と供に、北へ連れてゆかれる(4)
 ゴルの虜囚 69【CAPTIVE OF GOR】 他者と供に、北へ連れてゆかれる(5)
 ゴルの虜囚 70 【CAPTIVE OF GOR】 他者と供に、北へ連れてゆかれる(6)

8. ローラの北で起こったこと

9. 小屋

10. 小屋で明らかになったこと

11. アルのソロン

12. ベリー摘み

13. I Feel the Capture Loop

14. 服従

15.My Master Will Have His Girl Please Him

16. ゴルの月の元に鎖で繋がれる

17. カル港

18. カル港のボスクによるエピローグ
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2009年5月15日金曜日

ゴルの虜囚 【CAPTIVE OF GOR】

Captive Of Gor Synopsis
In this seventh book in the Gorean Series, beautiful and headstrong Elinor Brinton of Earth finds herself thrust into the savage world of Counter-Earth, also known as Gor.

Brinton must relinquish her earthly position as a beautiful, wealthy and powerful woman when she finds herself a part of the harsh Gorean society. She is powerless as a female pleasure slave in the camp of Targo the slave-merchant. Forced to learn the arts of providing pleasure to any man who buys her, Elinor is determined to escape. Nevertheless, she is sold for a high price, and her master is determined to get his money's worth…

あらすじ

 <半地球シリーズ>第7作目。美しく我の強いエリノア・ブリントンは、ゴルと呼ばれる野蛮な半地球の世界に放り込まれたことを知る。
苛酷なゴルの社会の一員となっては、ブリントンは美しく、裕福で、有力だった地球での地位を捨て去らなければならない。奴隷商ターゴのキャンプの、非力な女の快楽奴隷なのだ。
彼女を買うどんな男にも快楽を供給できる手管を教え込まれたが、エリノアは逃げることを決心している。それにもかかわらず、エリノアは高値で売られ、ご主人様は金額分の価値を得ようとする…。


 あれっ?このあらすじ内容と違うような・・・^^;


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