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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン
1. 焼印(1)
この手記は、わたしのご主人様の命令で書いたものです。
ご主人様はカル港のボスク。偉大な商人で、かつては戦士だったのではないかと思います。
わたしの名はエリノア・ブリントン、でした。独立して優雅に暮らしていました。
わからないことがたくさんあります。この体験談を通して、みなさんにどういうことなのかわかっていただきたいのです。
この話は珍しくも不思議でもない、起こりうることだと思います。
地球の基準なら、わたしはとても美人でしょう。でもこの世界では金貨15枚の女です。きれいなほうだけれど、はるかにしのぐとびきりの美女が大勢いて、ただうらやむばかりです。
わたしはボスク屋敷の炊事場用に買われました。訓練は、この世界と地球との間の奴隷の貿易ルートを持つ商人に受けました。商品の中でもとりわけ女は、捕獲されこの奇妙な世界の市場に連れて来られるのです。もし美人で有望なら、あなたにもそういうことが起こるかもしれません。
この世界の人はやりたいならきっとやるでしょう。
それでも、男へのご褒美にこの世界に連れて来られるよりも辛い運命が、女の身に降りかかることがあるかもしれないと思います。
ご主人様は、この世界について詳しくは教えてくださいませんでした。理由はわかりませんが、知ろうとは思いません。わたしの身に何が起こったのかは、だいたい話してくださいました。そして、わたしが考えたこと、とりわけ感じたことを書き留めて置くようにとおっしゃいました。わたしもそうしたいのです。もっとも、望まなくても従わなければならないのですけれど。
これだけでじゅうぶんでしょうけど、わたしの生い立ちや境遇を少し書きます。
ちゃんと教養を身につけたかは別として、贅沢な教育を受けてきました。寄宿学校のあとはアメリカ北東部の優秀な女子大学で、何年も孤独に耐えました。今のわたしにはその月日は不思議と空虚で、つまらなくさえあるのです。良い成績を取るのも難しくありませんでした。知性に優れていたらしく、わたしにしては出来が悪いものでさえ高く評価されるほどで、社交クラブのようなものでした。両親は裕福で、卒業するまで学校へも大学へもたびたび多額の寄付をしました。
わたしをちやほやしない男はいなかったし、教師たちもそうで、本当に熱心に機嫌をとっているようでした。フランス語の単位を1つ落としたときの教師は女性でした。学長はいつものようにその評価を受け付けず、わたしはもうひとりの男性教師と小テストを受け、当然成績の評価はAになりました。
学長、教師たち、その他のみんなのことを、ときどき慰みに思い出します。
どんなにわたしを喜ばせようと努力したことでしょう!
地球の男たちのことを思い出すわ!
どんなに男たちは女を喜ばせようと努力したことでしょう!
それで女が男を尊敬するとでも思ったの?
今になって思い出すと、くやしくて笑ってしまいます。
ここではなにもかも逆で、わたしのような女性には完全に逆なのです。ここではわたしたち女性は、必死になって努力に努力を重ねなければならないのです。男を喜ばせるために。男───<ご主人様>を。
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