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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン
2.首輪(2)
心臓が止まりそうでした。
部屋の中を見回すと、誰もいません。
ベッドの脇のナイトテーブルに置いてある電話のところまで、這って行きました。慎重に受話器を上げても、少しも音がしません。電話の発信音はせず、コードがだらりとぶら下がっていました。目に涙がこみ上げてきました。
リヴィングに電話がもう1台ありましたが、ドアの向こう側です。ドアを開けるのが怖くて、バスルームのほうをちらっと見ましたが、そっちも中に何があるかわかりません。怖いのは同じでした。
小型のリヴォルヴァーを持っていましたが、撃ったことはありません。だだそのことだけを考え、跳ね起きて部屋の脇にある三連チェストに飛びつきました。引き出しの中のスカーフとスリップの下に手を突っ込むと、ハンドルの手ごたえがあったったので、歓喜の声を上げたのもつかのま、信じられない思いで銃を見ました。泣くこともうめくこともできませんでした。ただ、何が起きているのかわかりませんでした。銃は形なく金属の塊になっていました。鉄のチョコレートの溶けたかけらのように。引き出しに放り投げて戻してから、立ち上がり茫然と鏡に映る無防備な自分の姿を見つめました。ただ恐怖という言葉では言い表せません。
この国の言葉では、容易に説明できないほどのことがわたしの身に起きていると感じ取り、怖くなりました。
寝室の大きな窓にかかるカーテンを乱暴に開けて街を見渡すと、汚れたガスが深く漂い、太陽の光に照らされ黄金色に輝いていました。
幻想的な黄金色の霞の中で、光を反射する幾千もの窓。
レンガ造りの大きな壁、鉄筋コンクリート、ガラス。
現実だわ。
佇むわたしに、汚れた厚いガラス越しに光が差し込んでいました。
現実だわ!
それなのに窓に映る裸のわたしの首には、外すことのできない鉄の輪がはめられ、太ももにはしるしが付けられているのです。
「イヤよ!イヤ!」
心の中で叫び声をあげました。
窓に背を向け、足音を忍ばせて少し空いているリヴィングのドアのほうに進み、勇気を振り絞り、ドアをもう少し開けました。誰もいないことにほっとして、気が遠くなりそうでした。
リヴィングは、すべてが昨日のままです。
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