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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン
3. 絹の紐(2)
部屋は荒らされていませんでした。絵は壁にかけられたまま、東洋のじゅうたんも床にしかれたまま、何も手を付けられていません。
背を向けたほうの男が格下のようでした。その男がジャケットの内ポケットから革のケースを出し、万年筆のようなものを取り出しました。それをねじって開けたのを見てぎょっとしました。注射器です。
やめて!わたしはめちゃくちゃに首を振りました。
男はわたしの背中のウエストと腰の間に、針を刺しました。
痛かったけれど、具合が悪くなるような感じはありませんでした
男は注射器をケースに入れ、ジャケットの内ポケットに戻しました。
背が高いほうの男が自分の腕時計を見て、注射器を持っていた小さい男のほうに、今度は英語で話しました。背が高いほうの男にはアクセントに訛りがありましたが、どこの訛りかはわかりませんでした。
「真夜中過ぎに戻る。今度はもっと楽だ。交通量が少ないから五時間でP地点に着くだろう。わたしは今夜別の仕事に立ち会わなくてはならないのだ」
「わかりました。では準備します」
小さいほうの男が答えました。返事にはこれっぽっちも訛りはなく、この男の母国語は英語に間違いないと思いました。他の男たちが話している言葉についていくのに難儀しているようでした。でも他の男たちが小さいほうの男に話しかけるときは簡略に、聞いたこともない言葉を話していました。小さいほうの男は即座に従っていて、背が高いほうの男を畏怖しているように思えました。
部屋の隅で、暗闇が少し広がってきました。
段々暗く、暖かくなっていくように感じましたが、目をつぶらないようにしました。
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