<反地球シリーズ> ゴルの虜囚 ジョン・ノーマン 7. 北への旅(7) ローラに到着するのに何日もかかりました。 運良く、わたしがターゴの鎖に繋がれてから2日以上経たず、ローラから南東にコ=ロ=バへ向かう、ボスク荷車のキャラバンに会いました。ターゴは金を余分につけて娘を2人売り、荷車を2台とボスクを2頭ずつ購入しました。水や食料と同じくらいの必需品です。ターゴは奴隷商人の装備品も購入しました。展示の鎖、他のさまざまな鎖、奴隷のブレスレット、足かせ、首輪、撚紐、焼き鏝、鞭。わたしがより嬉しかったのは、ターゴがシルク、香水、櫛やブラシ、化粧品の箱も買ったと知ったことです。大量の生地も購入しました。後にこの生地から、簡素な奴隷の服のカミスクが作られるのを知りました。ワゴンの中で足首の横木に鎖で繋がれるとき、娘たちは通常服を脱がされています。タルン戦士に襲われたとき、娘たちは荷車から放され茂みの中に追い立てられました。カミスクはターゴのほとんどの商品と共に燃えてしまいました。カミスクは四角い布で、頭を通す穴が切られていて、ポンチョのようなものです。ふちは普通ほつれ止めにかがってあります。ターゴの指示の元、娘たちは幸せそうにカミスクの裁縫をしました。わたしが聞いたには、カミスクは膝丈が普通です。でもターゴはかなり短くさせました。わたしは裁縫を習ったことがありませんでしたから、わたしのは下手でした。ターゴは長さに納得せず、もっと短くさせて、ラナや他の娘のより短くなってしまったわ!でも鞭を打たれたことを忘れていなかったので、ほかの事は望みませんでした。鞭をひどく恐れていました。そしてみんなと同じように着ました。カミスクは一頃、鎖をベルトにしたと教えられました。でもわたしが個人的に見たり、与えられたものは、黒か茶色の撚紐をベルトにしていました。その代わり時々、長くて細い皮ひも、<撚革>が使われます。...
2009年9月10日木曜日
2009年8月22日土曜日
ゴルの虜囚 70 【CAPTIVE OF GOR】
<反地球シリーズ> ゴルの虜囚 ジョン・ノーマン 7. 他者と供に、北へ連れて行かれる(6) ターゴはコ=ロ=バから40人の娘、5台の荷車、10頭のボスクと多くの品々を持って旅立ちました。 そのとき部下の男は20人以上に達していました。コ=ロ=バから二日、 ローラに向かう北の原野を渡っていると、ゴルで畏怖されている戦士の一人である恐ろしいトレヴェのラスクの配下にある、100人を超える無法者のタルン戦士が飛び、空が暗くなりました。 幸運なことにターゴはタルン戦士に襲撃される前に、 広大なカ=ラ=ナの茂みの端へキャラバンを導くことができました。 わたしは草原を一人でさまよっていたとき、そのような茂みをいくつか見たことがありす。 ターゴは巧妙に部下を分割しました。 出来るだけ金や物を押さえるように配置される者。 娘を放して茂みの中に追い立てるように指示される者。...
2009年8月12日水曜日
ゴルの虜囚 69【CAPTIVE OF GOR】
<反地球シリーズ> ゴルの虜囚 ジョン・ノーマン 7. 他者と供に、北へ連れて行かれる(5) ターゴも衛兵の何人かも、ラナに時々飴や果物の砂糖漬けを与えました。 わたしの展示用の鎖の位置は、最初は4番目でした。 決まったひざまずき方を教えられ、品定めされるときには、顔を上げて微笑み、決まったフレーズを口にしました。ターゴと衛兵は、わたしに何度も練習させました。 後にそれは「買ってください、ご主人様」という意味だと知りました。 展示されている娘たちの左の足首には、輪がはめら、これが足首をつないでいます。 錠のかけられた大きな輪から突き出した、小さな輪です。この小さいほうの輪は、鎖の特定の輪にとめることができ、それゆえ娘に一定の間隔をあけさせたり、全体として鎖を囲むことができ、それゆえ鎖が娘の足首を傷つけたり、火傷させることなく自由に鎖を這わせることができます。 ...
2009年8月9日日曜日
ゴルの虜囚 68 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次 <反地球シリーズ> ゴルの虜囚 ジョン・ノーマン 7. 他者と供に、北へ連れて行かれる(4) わたしを獲得する前、ターゴはコ=ロ=バからローラに北上していました。実際に、さまざまな都市で娘を売り買いしながら、アル付近からはるばる来ていました。ターゴはインジ、ユート、わたしの大嫌いなラナをコ=ロ=バで購入しました。ラナはわたしたちのリーダーで、わたしたちは彼女を恐れていました。男には服従し、愛想が良く従順ですが、わたしたちには横柄でした。わたしたちはラナが言ったことをして、さもなくばぶたれました。言われているとおり、ご主人様は奴隷のつまらない口げんかにはあまり干渉しません。もちろんわたしたちに傷をつけたり、怪我をさせたり、価値を下げたら、ラナはひどくぶたれるでしょう。でもそれ以上に、思うさまわたしたちに威張りちらし、ぶつかもしれません。わたしたちは彼女を憎み、うらやんでもいました。彼女は一番美人なだけではなく、陥落する前はアルの立派な奴隷屋敷だったセルヌス屋敷で訓練されていました。さらに重要なことは、キュルリアンの競売にも出されたことがあります。ラナはいつも展示用の鎖の最後に繋がれました。一番魅力的な商品は最後にちらりと見せるのです。わたしたちは彼女が売られることを望んでいましたが、ターゴは極めて高い値がつくのを待っていました。彼女が上層階級の出ではなくても、ターゴはいくらでも受け取ることができるでしょう。ラナはユートのように革職人でしたが、わたしたちを奴隷とみなしていました。...
2009年8月8日土曜日
ゴルの虜囚 67 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次 <反地球シリーズ> ゴルの虜囚 ジョン・ノーマン 7. 他者と供に、北へ連れて行かれる(3) ターゴには残念ですが、村の娘は高い身分ではありません。高い価値がない代わりに、高い身分の自由市民よりずっと簡単に手に入ります。わたしがターゴに捕らえられたとき、鎖に繋がれた高い身分の娘は背の高い娘のインジ一人だけで、書記階級でした。隣で引き具を付けられたユートは革職人でした。もちろん、ある意味で奴隷には身分は無いのですけれど。隷属すると、身分も名前さえも奪われます。奴隷はあらゆる点で動物のごとくにご主人様のものです。ご主人様は思い通りに奴隷を呼び、彼を楽しませることをするかもしれません。ターゴの村娘の一人では見込みがなさそうですが、訓練してアルに連れて行けば、金貨10~15枚、もしかしたら金貨20枚にさえなるかもしれません。彼の投資は優れた面もあるものの、リスクがなくもありませんでした。伝統的に高値で取引されるアルの市場に娘を運搬するのは、いつも易しいわけではないのです。奴隷商人が捕虜を逃すことはあまりないので、娘が逃げるということではなく、むしろ奪われるからです。女の奴隷は戦利品なのです。...
2009年8月7日金曜日
ゴルの虜囚 66 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次 <反地球シリーズ> ゴルの虜囚 ジョン・ノーマン 7. 他者と供に、北へ連れて行かれる(1) ローラで一般的に見つけられる商品の性質を考慮すれば、主に粗製品ですから、ターゴがローラに向かったのを不思議に思うかもしれません。でも不思議でも何でもありません。春でしたし、春は奴隷あさりには重要な季節です。それに、前の秋にサルダル山脈の近くのセ・カラの祭の市で、襲撃者スキャーンのホーコンとローリウス北部や沿岸の村、トルヴァルズランド端の上部からまで連れてきた100人の美女の契約をしていました。この商品を取りに行くため、ターゴは危険を冒してローラへ行くつもりでした。その祭の市で既にホーコンに金貨50枚分の手付金を既に払っていました。委託品が引き渡されたら残額の金貨150枚が支払われることになっていました。金貨2枚はローラで引き渡される生娘一人には高額ですが、大きな市場に安全に運べたら、訓練されていなくても多分5枚以上で売れます。それにローラで金貨2枚だけ提供すれば、ホーコンの捕獲した極上の選り抜きだとターゴは確信していました。この他に、最近都市が陥落していないし、アルのセルヌス屋敷が滅びたから、この春の相場は高くなるだろうと、ターゴは思い巡らせていました。さらに、南東のアルに連れて行く前に、多分コ=ロ=バの奴隷部屋でいくつか訓練を受けさせるつもりでいました。...
2009年7月23日木曜日
ゴルの虜囚 65 【CAPTIVE OF GOR】

→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン7. 他者と供に、北へ連れて行かれる(1) わたしのご主人様のターゴは奴隷商です。 何の費用もわたしにはかかっていません。 わたしがターゴの奴隷の一員にされるちょっと少し前、ほんの2、3日前に、ターゴは無法者のタルン戦士に攻撃されました。ターゴは、惑星ゴルの高緯度で温暖な地帯のコ=ロ=バ市から、北東寄りを4日ほど北上していました。ゴルがこの世界の名前です。ターゴはコ=ロ=バの東西の丘陵地帯や牧草地をたどり、タッサと呼ばれる海の沿岸から200パサング位離れた、ローリウス川岸のローラに向かっていました。ローラは河港の小さな貿易の街です。建物は主に木造で、大部分は倉庫と宿屋です。材木、塩、魚、石材、毛皮、奴隷など、さまざまなものの手形交換所があります。ローレウス川のタッサへの注ぎ口は、自然とゴルの重要な身分である商人に統治されているリディアスの自由港となりました。テレタス、ハルネス、アスペリチェや、カル港やヘルムートスポートのようなコスやテュロスの沿岸、遥か南のシェンディやバジにまで、商品はリディアスからタッサの島々に向けて船に乗せられます。そして当然リディアスから様々な商品、主に粗製品の道具類、天然金属や布が、平底の荷船で運ばれたり、河に沿って木々の茂る道をタルラリオンに引かせたりしてローラに運ばれ、売られたり内地の配給になります。ローリウス川は曲がりくねった、長くて穏やかな、流れの緩やかな川です。川幅は狭く、コ=ロ=バよりずっと下で、ゴルでもっとも偉大な街と言われるアルより上に流れる、遥か南の巨大なヴォスクの脅威である流れの急なところもありません。ヴォスクのように、だいたい西側の方向に流れていますが、ローリウスのほうが偉大なヴォスクより、南西に傾いています。*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:**・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*訳者の言い訳と解説今回は地名がたくさん出てきますね。地図が見たい方は、「極東のゴル」さまを参照してください。 →...
2009年7月12日日曜日
ゴルの虜囚 64 【CAPTIVE OF GOR】

→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン ターゴがわたしたちの横にきたので、ワゴンに乗るんだろうと思ったら、そうではありませんでした。ターゴは荷車を出来るだけ軽くしたいらしく、それはリーダーだとしても歩かなければいけないということです。 いつ「ハル=タ!」とターゴが声を上げ、またぶたれるかと気が気ではありません。 鞭の支配下で、バンドをかけられて、すすり泣きました。 でもわたしは地球の、パーク・アヴェニューのエリノア・ブリントンよ!わたしはお金持ちで、美人で、こぎれいな装いをして、趣味がよくて、洗練されてきたのよ。十分な教育を受けて見識も広いわ。決断力があって、自信に満ちていたわ。富も美しさも欲しいままに躍進してきて、社会で相...
2009年7月11日土曜日
ゴルの虜囚 63 【CAPTIVE OF GOR】

→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン6. 奴隷商ターゴとの邂逅(13) ターゴが大声で命令を下しながら、気遣わしげに見回しています。 部下の一人が掛け声を上げました。 娘たちが引き革につながれて、前かがみに荷車を引きました。 男たちのうち二人が、後輪を押しました。 荷車が動き出しました。 革のバンドから身を傾けて、進んでいるふりをしました。 この人たちが荷車を引くのに、わたしは必要ありません。前にも引いていたのですから。精一杯やっているかのように、草に足を突っ込みました。効果を上げるために、少しうっとうめいたりしました。 ユートは嫌な感じの、疑いの目をわたしに投げかけました。ユートの小さな体は、紐に引っ張られていました。...
ゴルの虜囚 62 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン6. 奴隷商ターゴとの邂逅(12) 手首を掴んでいた二人の男たちが、わたしを後ろからぐいと掴みました。わたしはターゴが退く後ろ姿を見つめていました。ターゴに向かって叫ぶ勇気はありません。もはや彼はわたしに興味を失っていました。二人の男はわたしを荷車の轅(ながえ)に引きずっていきました。片方に10人、もう片方に9人いました。 わたしをぶった娘、ラナが前の位置にいました。にわかに、ラナに引き具が付けられていることに気付きました。留め金のついた革のバンドを手首にはめられ、持ち場につながれています。体には左肩から右の腰に、ずっしりとした革の幅広い輪がかけられ、荷車の轅にボルトで締められていました。他の娘たちも同じようにつながれていました。留め金のついた革バンドがわたしの手首にはめられ、肩から体に重々しい革の輪を通されました。 わたしはすすり泣き、かろうじて立っていられるよ...
2009年7月4日土曜日
ゴルの虜囚 61 【CAPTIVE OF GOR】

→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン6. 奴隷商ターゴとの邂逅(11) 娘が、女のわずかな獰猛な力でぶちました。何度も何度も、繰り返し繰り返し、意地悪く、荒々しく、あらん限りの激しさで、何度も何度も。わたしは声を上げ、叫んで泣きじゃくってもがきました。細い革の紐の束は、情け容赦ありませんでした。わたしは草を噛み、息もできません。涙で目が見えません。何度も何度も!「お願いやめて!」でももう叫ぶこともできません。ただそこにあるのは草と、涙と、何度も何度もぶたれる鞭の痛みです。 実際にぶたれ続けたのは2,3秒だけなのかもしれませんが、1分以上ではなかったと思います。 ターゴがその娘、ラナに何か言うと、革の刺すような痛みの雨が止み...
ゴルの虜囚 60 【CAPTIVE OF GOR】

→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン6. 奴隷商ターゴとの邂逅(10) ターゴは部下に何か言いました。 すぐさまターゴの前で、わたしは服を剥ぎ取られました。 叫び声を上げると、荷車の轅(ながえ)のところに居る女たちが笑いました。「カジュラだ!」男の一人が声を上げ、わたしの太ももを指差しました。 体中が紅潮しました。「カジュラだ!」ターゴが笑っています。「カジュラだ!」他の人たちも笑っています。轅にいる女たちの笑い声と、手を叩く音が聞こえました。 ターゴの目から小さな涙が、太った顔に滑り落ちました。 それから、突然怒ったようでした。 つっけんどんに、ものを言いました。 わたしは草の上に、腹ばいに顔を突っ伏されました。二人の男...
2009年7月1日水曜日
ゴルの虜囚 59 【CAPTIVE OF GOR】

→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン6. 奴隷商ターゴとの邂逅(9) でも大事なのは、わたしは助かったということです。すぐに地球への帰り道を買い取れるってことです。 きっと誰か見つかるし、ここにいなくても隣の町に、英語を話して、地球へ帰る旅行券を買える人と接触させてくれる人がいるはずです。 重要なことは、わたしは救助されて、安全だと言うことです。 わたしは救助されたのよ。 ターゴを不快に思い始めました。 それに、わたしの手首を二人の男が両脇で掴んでいて欲しくないと思いました。 手首をいらだたしげに引き抜こうとしましたが、当然自由にはできませんでした。 男も男の力も憎い。 ターゴは更に焦れてきていました。「放してよ!放してっ...
2009年6月6日土曜日
ゴルの虜囚 58 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン6. 奴隷商ターゴとの邂逅(8) イラッとして女たちを見て、呆然とさせられました。信じられないほどの美女たちです。わたしは数万人に一人の、幻想的なまでに美しい女性だと自分で思っています。モデルでさえあったのです。でもここには驚いたことに、しかもものすごく頭に来ることに、少なくとも11人は疑いなく、明らかにわたしより美しいのです。わたしとしては、地球で、自分より美しさが優れていると認める人に会ったことがありません。ここには、理解できないけど、明らかに少なくとも11人います。こんなところにこんなにたくさんいるのは、どうしたら有り得るのかと困惑しました。感情をかき乱されました。でもわたしのほうが知性的で、お金持ちで、趣味が良くて、洗練されているんだと自分に言い聞かせました。この女たちは単なる野蛮人よ。この女たちに憐れみを覚えました。気に入らない!ムカつくのよ!わたしが地...
2009年6月5日金曜日
ゴルの虜囚 登場人物 【CAPTIVE OF GOR】
エリノア・ブリントン 地球の裕福で傲慢で美しい娘。職業モデル。惑星ゴルに奴隷として拉致される。ゴルの虜囚の主人公。タール・キャボット(ボスク) 反地球シリーズの主人公だが、今回のお話には最後にちょっとしか出てこない。現在はカル港の商人のボスクを名乗っていて、タール・キャボットの名は捨てている。ターゴ 惑星ゴルの奴隷商人。ユート 女奴隷。元革職人階級。インジ 女奴隷。元書記階級。ラナ 女奴隷。ターゴキャンプの奴隷のリーダ...
ゴルの虜囚 57 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン6. 奴隷商ターゴとの邂逅(7) この男たちは見たところとても素朴です。わたしをさらってきた、洗練された装備を持つ人たちと同じグループのはずがないことに、不安が和らぎました。でも同様に不安でもありました。宇宙の間を飛ぶのに必要な技術力なんて、明らかに持っている人たちではありません。この人たちは、本当に、自力でわたしを地球に帰せるはずがありません。 それでも偶然に出会ったのだし、最善を尽くすべきでしょう。 わたしは助かった、大事なのはそのことです。この世界には間違いなく、宇宙飛行の能力を持つ人たちが居るはずです。調べてコンタクトを取ろう。わたしはお金持ちだから、地球に戻る輸送費は十分払えるわ。大事なのは、わたしの身は安全だと言うこと。助かってってこと。 荷車を見ました。 どちらかと言うと大きいほうです。何箇所に傷跡がありました。まるで、鋭いものがぶつかったようでした...
2009年5月28日木曜日
ゴルの虜囚 56 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン6. 奴隷商ターゴとの邂逅(6) 突然わたしははっとしました。その言葉を以前に聞いたことがあります。わたしのペントハウスでベッドに縛り付けられたとき、あの小さい男がわたしに触れると、背の高い男が厳しく怒って小さい男に言った言葉。そして小さいほうの男が顔の向きを変えました。 ターゴが話す言語の何に良く知ったものがあるのかは、わたしを打ちのめしました。たった一言二言聞いたことがあるだけです。わたしを捕まえた人たちの対話はもっぱら英語だったので、全体から見て少なくとも、彼らの母国語は英語だと推察していました。でも、他の者たちに指示をする背の高い男のアクセントを思い起こしました。外国人として特徴あるアクセントのしゃべり方の英語でした。でもこの、遠く離れた世界で同じか似たようなアクセントを耳にしました。ただ、ここではアクセントではないのですけれど。ここでは自然な響きで、リズ...
2009年5月17日日曜日
ゴルの虜囚 55 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン6. 奴隷商ターゴとの邂逅(5) いくらかじれったく感じながらも、少し辛抱して、さっき言ったことを繰り返しました。わかりやすいだろうと、はっきり、ゆっくり、話しました。 男たちが掴んでいるわたしの手首を離して欲しいわ。 ターゴに話し続け、わたしが陥っている窮地と要求を説明しようとしましたが、ターゴは無愛想でじれったげに何か言うだけでした。 怒りにカッとしました。 この男はわたしの話を聞く気がないんだわ。 手首を引きましたが、二人の男は離してくれませんでした。 それからターゴはわたしに話し始めましたが、何ひとつ理解できませんでした。ターゴは使用人に話すように鋭く話しました。このことにイラっとしました。「言っていることがわからないわ」わたしは冷ややかに言いました。 ターゴはもどかしげに考え直しているようでした。わたしの声のトーンにはっとしたらしく、わたしを注意深く見つ...
ゴルの虜囚 54 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン6. 奴隷商ターゴとの邂逅(4) よろめきながらも笑って、彼らのほうに向かい丘を駆け降りました。 男たちのうち二人がこちらに走ってきて、荷車の脇にいたあと二人は、わたしを通り過ぎ丘の上に走りました。「わたしはエリノア・ブリントン」わたしのところに来た男たちに話しました。「ニューヨークに住んでいます。道に迷ったんです」 男の一人は、両手でわたしの左腕を掴みました。もう一人は、両手でわたしの右腕を掴みました。男たちはすばやく、優しくはなくわたしを引っ張って導き、荷車の人たちのところに丘を下りて行きました。 しばらく彼らはわたしを掴んだままで、荷車の横に立っていました。 青と黄色の広いストライプの絹のローブに身を包んだ、背が低く太って肉付きの良い太鼓腹の男が、かろうじてこちらを見ました。二人の男が行った丘の上を、より気にするように見つめていました。男たちはかがんで丘の上...
ゴルの虜囚 53 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン6. 奴隷商ターゴとの邂逅(2) だいたい午後の中ごろ、草深い二つの丘の間の緩やかな坂に腰を下ろしました。 助かる見込みはあるかと考えました。 冷笑しました。ここはわたしの世界ではないとわかってるわ。わたしを運んできた船は、この種の自分の限られた知識からしても、現在の地球の文明の能力をはるかに超えています。わたしを捕らえた船の乗組員は確かに人類か、人類のようでした。銀色の船の人たちも、大きくて繊細な金色の生き物以外は、人類のようで、より人間らしく感じました。 でも黒い船は壊れてしまった。銀色の船も行ってしまった。多分、他の世界へ。 それでも助かりたいのよ!助かるわ!助かるに決まってる! とても怖いわけでもなくなっていました。 この世界でも生きていけるわ。 でも、孤独。 ここには恐れるものは何もないと、自分に言い聞かせました。食べるものも、水もあります。ベリーを見つ...
ゴルの虜囚 52 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン6. 奴隷商ターゴとの邂逅(2) 歩き続けました。 夜明けから二時間ほどして、岩がむき出しのところにたどり着きました。ここで、石の間に雨水の小さな水たまりを見つけて、水を飲みました。 嬉しいことに、近くに食べられるベリーを見つけました。おいしくて、この原野で何らかの自信が付きました。 太陽が空に昇り、暖かくなってきました。二度ほどにわか雨がありましたが、別に気になりませんでした。空気は澄み渡り、草は緑、空は抜けるように青く輝き、雲は白い。 太陽が頭の上に来た頃に、もっとベリーを見つけて、今度はお腹いっぱい食べました。そう遠くない別の岩場で、雨水が溜まった水溜りを見つけました。大きな水溜りで、欲しいだけ水を飲み、顔を洗いました。 そして歩き続けました。 もう恐れないし、気が立ってもいません。この世界で生きていくのも不可能ではなさそうに思えました。 美しい世界。 少し...
ゴルの虜囚 51 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン6. 奴隷商ターゴとの邂逅(1) 明け方近くに目を覚ますと、とても寒くて、どんよりとじめじめした天気でした。ひどくお腹が空きました。体はこわばっていて痛み、すすり泣きました。葉の長い草の露を吸いました。わたしは一人ぼっちなんだわ。服は濡れて、惨めでした。わたしは一人ぼっち、たった一人なんだわ。怖くて、お腹が空いて、涙が出ました。 わたしが知る限り、この世界にいるのはわたしだけかもしれない。船はここで壊れたけれど、この世界のものではないのかもしれません。他の船が難破船を破壊しに来たけれど、その船もこの世界のものではないのかもしれません。壊れた船の生存者も見てないし、他の船も立ち去ってしまいました。わたしが知る限り、わたしがこの世界の唯一の人類なのかもしれないわ。 立ち上がりました。 周りには、ほの暗い明かりを反射し、きらきら輝く柔らかな露が、波打っていました。草原が...
ゴルの虜囚 50 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン5. 三つの月(8) 走らなくちゃいけないわ。歩かなきゃいけないわ。そして何時間かよろよろと歩きました。 一度休もうとして立ち止まりました。息を切らして草の上に横たわりました。目を閉じると、カサカサと音が聞こえました。顔を向けて目を開け、びっくりして見ました。つる性の巻きひげと葉のあるものでした。閉じたり割れたりした豆の鞘が、こっちに向かって動いてきました。地面からかすかに持ち上がり、あちらからこちらに動いていました。鞘の中の上の面には、二つの長い角のように曲がったとげが、しっかりと付いているのが見えました。わたしは悲鳴を上げて飛び起きると、それが突然ぶつかってきて、右足のパンツの布を引き裂きました。布を破って足を引き離しても、何度も何度もぶつかってきました。植物には根があるし、届かないところにいるのに、においか体温を感知しているかのようです。頭を後ろに傾け、頭の...
ゴルの虜囚 49 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン5. 三つの月(7) しばらく経っても何も起きなかったので、顔を上げました。 銀色っぽい円盤は、半分埋まっている黒い船の裂け目の近くに着陸していました。 黒い船は赤っぽく輝いていましたが、数分後には輝きが消えて行きました。 銀色の船のハッチが開き、男たちが飛び出してきました。銀色の管か杖のようなものを運んでいて、多分武器です。彼らは黒い船の人たちのようにチュニックを着ていましたが、光沢のある紫っぽい素材でした。髪は剃られていました。男たちの何人かは船の周りを取り囲み、別の男たちは武器を持って中に入ってゆきました。 それから恐ろしいことに、大きくて金色の生き物が、足は六本あって後ろの長い四本で体を支え、まっすぐな姿勢で銀色の船から出てきました。大きな目で、触覚だと思われるものがありました。その生き物は、すばやく、繊細に、上品ともいえる動きで船に向かい、四つんばいで黒...
ゴルの虜囚 48 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン5. 三つの月(6) 生き返った気持ちで、力が沸いてきたので立ち上がりました。憂鬱に見回して食べ物を探しましたが、調理用具がいくらかあるだけで、ナイフも武器として使えそうな物もありませんでした。 それから、この船に長く居すぎたかもしれないと思いました。死体はないけど、ベッドに血のしみは見つけていました。生存者がいるなら戻ってくるかもしれません。怖くなってきました。食べ物を探し、食べることに夢中で、全て忘れていたのです。 調理室のドアを開けると、鳥のさえずりが聞こえました。 小さな鳥で、すずめくらいの大きさですが小さくてふくろうにちょっと似ていて、目の上にふさがありました。紫がかった色でした。こちらをいぶかしげに見ながら、折れたパイプに止まっていました。 少しの間こちらを見てから、せわしなく羽を動かし、船から飛び去ってゆきました。 わたしも、船から逃げ出しました。 ...
ゴルの虜囚 47 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン5. 三つの月(5) ぞっとしました。食べ物や武器を探したいと思って、船を駆け抜けました。乗組員の部屋を見つけました。ロッカーと六つの簡易ベッドと鏡がありました。ベッドは三つが壁際にあり、二枚の壁で固定された二段ベッドでした。ロッカーは壊れて開いていて、中身は空でした。ベッドの一つの脇に、血が付いているのに気がつきました。 部屋から急いで出て、小さな調理室を見つけました。隅には小さな犬ほどの大きさの動物が、背を丸めて何かをかじっていました。突き出た口を持ち上げ、しゅうしゅうと唸り威嚇してきて、首と背中の毛を突然パチパチと音を立て逆立てました。 わたしは悲鳴をあげました。その動物は二倍ほどの大きさになったように感じました。 蓋がはじけ飛んだ金属の容器の上に身を乗り出し、丸まって皿を守ろうとしていなくもありませんでした。 その動物は絹のように艶々した毛で、目は炎のよう...
ゴルの虜囚 46 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン5. 三つの月(4) 制御室らしきところを見つけました。椅子が二つと、椅子の前には大きな窓がありました。この部屋には、脇にたくさんのダイヤルや計器、スイッチの前に椅子がもう二脚あって、全部で椅子は四脚でした。エンジンルームは見つけられませんでした。この船を操縦するのがどんな力であるにせよ、床の板を通じて届くのでしょう。この船のエンジンも武器も、武器があるとしたらですが、制御室から操作するに違いありません。わたしが監禁された、硬いプラスチックのシリンダーが置かれていたエリアを見つけました。シリンダーは全部開けられていて、中身は空でした。 後ろから音が聞こえたので悲鳴を上げました。 小さな毛のある動物がちょこちょこ走りすぎて、爪で鉄の板を掻いていました。その動物には足が六本ありました。わたしはパイプのある棚に寄りかかり、息をのみました。 でも今は怖くなりました。 船に...
ゴルの虜囚 45 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン5. 三つの月(3) 船には動きがないようで、周りに鳥が何羽か飛び交っています。 中に食べ物があるかもしれないわ。ゆっくりと、びくびくしながら、船に一歩一歩近づいて行きました。鳥のさえずりが聞こえました。 遂に、船から20ヤードあたりに恐る恐る回り込みました。 船は裂けて開いていて、鉄の板ははがれて曲がり、焦げて火ぶくれしていました。 生き物の気配はありません。 半分草に埋まっている船に近づいて行きました。鉄の大きな裂け目の一つから、中をのぞき込みました。縁は溶けて固まっていました。所々に鉄が溶け出して垂れていて、刷毛で塗ったペンキが重くしたたり固まったかのようでした。船の中は黒く焦げていました。あちこちにあったパイプは破裂し、パネルはばらばらに裂けて複雑な中身が露出し、中の回路は黒くなっていました。厚い、ガラスか水晶かプラスチックかのあちこちの舷窓は、割れていま...
ゴルの虜囚 44 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン5. 三つの月(2) 周りを見回しました。 自分から数百ヤードかそこらに、金属の砕けた塊がありました。亀裂の入った黒い金属の構造物が、半分草に埋まっていました。 船だわ。 わたしの足首には、もう足かせが付いてないことに気がつきました。外れていたのです。 捕らえられた時の服のままで、皮色のパンツ、黒いベア・ミドリフのブラウスでした。サンダルは地球の林で無くしました。わたしが取り乱した動物であるかのように、的を外さず追ってきて、罠に陥れた小さな黒っぽい船から逃げていた間です。 船から遠くに走り去るべきだと思いました。でも金属の塊の周りには、生き物の気配はしません。それに、ものすごくお腹が空いています。小川の方に這いつくばっていき、四つん這いで口に水をすくいました。 流れの底の黄色い花だと思っていたものが、小川の冷たい表面を割り、小さい黄色の魚の群れになったので、びっく...
ゴルの虜囚 43 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン5. 三つの月(1) 何が起こったのか推測するのは容易ではありません。 どのくらい意識を失っていたのもかわかりません。 わかっているのは、目を覚ますと草の上で顔を横にしてうつぶせになり、意識が朦朧としていることだけです。指が草の根をむしり取っていました。叫び声をあげたかったけど、身じろぎしませんでした。八月のあの日の午後と夜のできごとが脳裏をかすめました。目を閉じて、眠りに戻らなくては。目を覚ませば、自分の部屋の白いサテンシーツのベッドにいるに違いないわ。でも頬に当たるみずみずしい草が、なじみのある部屋にいるのではないことを物語っていました。 手とひざをついて体を起こしました。 目を細めて太陽のほうを向くと、何かが違うように感じました。手を動かし地面に立ちました。 恐怖に胃の中のものがこみ上げてきました。 地球ではない。わたしの知っている地球ではないと気づきました...
ゴルの虜囚 42 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン4. 奴隷のカプセル(12) 奇妙な感覚はかなりのあいだ続きました。しばらくすると、何分かシリンダーの側面にひどく押しつけられました。すると突然なんの力もかかっていないようになり、シリンダーの反対側に押し流され、怖くなりました。指一本の力で、ひどく押しつけられていた側から戻ることができました。下降しているのだと思いました。しかしすぐ後に、底に金属の板の付いたサンダルを履いた、黒いチュニックの男の一人が、一歩ずつ慎重に金属の床を横切りました。そこは床だったけれど、今はわたしの左側の壁になっていて、不思議と男が壁を動いていたのでした。 わたしは惨めに叫び声を上げました。 今やこのカプセルの中で、絶望的に方向がわからなくなりました。 方向感覚が全くなくなり、どっちが上か下かも、もはや方向があるのかさえもわかりません。 男はシリンダーに引き込まれたホースが繋がっている機械...
ゴルの虜囚 41 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン4. 奴隷のカプセル(11) めまいがし始め、息苦しくなってきました。 男の一人が、頭の上の小さな開口部に、細い管を取り付けたので、わたしは顔を上げました。 酸素がシリンダーに流れ込んできました。 別の管がわたしの足下に接続されると、ほとんど聞き取れない小さな音を立てて、空気を吸い込み、息ができるようになりました。二人の男は中央通路に立っていて、気をつけをして一人は棚の右を、もう一人は棚の左を押さえていました。突然わたしはエレベーターにいるような感覚になって、一瞬息ができなくなりました。今や上昇しているのだと悟りました。シリンダーに押しつけられる体の感覚からすると、垂直か垂直に近い形で上昇しているに違いありません。特に強い圧迫はなく、少し不快感がありました。早くて怖かったけれど、痛みはありません。モーターの音も、エンジンの音も聞こえませんでした。 だいたい一分ほど...
ゴルの虜囚 40 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン4. 奴隷のカプセル(10) 力強い手がわたしを後ろから掴みました。黒いチュニックを着た男のうちの一人でした。彼の頬骨のところには、小さい三つのかき傷がありました。わたしは涙を流して蹴飛ばしながら、船を通るパイプと板の列の間を押しやられました。 そしてカーブしたエリアに来て、ぞっとしました。金属の棚が密接してぎゅうぎゅうに詰められていていました。棚は上は曲がった船の金属の天井に、下は金属の床に固定されていました。列の間には狭い通路がありました。棚の中には、大きくて、透明な、硬いプラスチックでできていそうな透明なシリンダーやチューブが、床に平行する長い軸にベルトでとめられていました。その中には、わたしが見た、トラックから運ばれた女性たちが入っていました わたしは中央の通路の、右も左もシリンダーの棚の間に無理やり押し込まれました。 そして、そこで押さえられました。 空...
ゴルの虜囚 39 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン4. 奴隷のカプセル(9)「急げ!急ぐんだ!」黒いチュニックの男が叫びました。「ランデヴーしなくてはなりませんな!どうぞこちらへ」背の高い男が、船のほうへ招く身振りをしました。 鈍くわたしは船のほうに体の向きを変え、背の高い男の先に立ちました。「急ぐんだ、カジュラ」男は穏やかに言いました。 タラップを上り、振り向くと彼は後ろの草の上に立っていました。「お前の時間では、今日は経緯線の6時16分に夜明けが起こる」 太陽のふちがわたしの世界の端に昇り、色付いてゆきました。東には夜明けがありました。これが初めて見た夜明けです。一晩中徹夜したことはそう何回もありませんでした。朝日が昇るのを見たことはありません。「さらばだ、カジュラ」 わたしは叫び声を上げて腕をいっぱいに伸ばしました。鉄のタラップが跳ね上がり定位置に固定され、わたしを船の中に閉じ込めました。紋章の入ったドアも...
ゴルの虜囚 38 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン4. 奴隷のカプセル(8) そしてわたしは、元々着ていた皮色のパンツと、黒いベア・ミドリフのブラウスを身にまとい、男たちの前に立っていました。鉄の足かせ以外は。「よく見ろ」背の高い男が黒い船を指しながら言いました。船を見ると、表面の光が明滅し始めました。光が渦を巻くように絡み合い、目の前で光が灰色がかった青から、すじ状の白へと変化して行きました。 東に、曙光(しょこう)が見えました。「これは地面の光にカモフラージュする技術だ」背の高い男が言いました。「原始的なものだ。中のレーダー遮蔽装置はもっと高性能だが、光のカモフラージュ技術は、かなり我々の船の目撃を抑えることができるのだ。それにもちろん、普段我々は行き来は大きな船で決められた地点にしている。小さいほうの船はもっと広範囲で使われるが、通常は夜だけ、隔離された地域だけでだ。ちなみに、光カモフラージュとレーダー遮蔽...
ゴルの虜囚 37 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン4. 奴隷のカプセル(7) 背の高い男が黒いチュニックの男にうなずきました。黒いチュニックの男が手を上げると、小さい円盤の船がゆっくりと離れ、大きい船に向かって動きました。大きい船の荷役口が上にスライドし、小さい船が中に入って行きました。中で黒いチュニックを着た男たちが、金属の床の板に小さい船を固定しているのが、一瞬見えました。荷役口がまた滑るように閉まりました。残りの箱は、今やトラックに戻されていました。空き地のあたりをそこかしこに男たちが動き回り、荷物をまとめてトラックに積んでいます。 わたしは腕は動かせませんでしたが、かろうじて指は動くようになりました。「でもあなたの船は、小さい船はわたしを見つけられなかったみたいじゃない」「見つけたさ」男が言いました。「あの光は、わたしを捉えなかったわ」わたしが言うと、「お前はただ運悪く、単なる偶然でこの駐留地に陥ったと思...
ゴルの虜囚 36 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン4. 奴隷のカプセル(6)「離して!お願いよ!お願いだから!」わたしは叫びました。「時間がないぞ!早くしろ!」黒いチュニックの男が急き立てました。「ハンドバッグを持って来い」背の高い男が穏やかに言いました。わたしが逃げようとしたときに落としたところから、ハンドバッグが持って来られました。 背の高い男がわたしを見て、訊ねました。「お前がどうやって後をつけられたのか、気になるんじゃないか?」 わたしは痺れながらもうなずきました。 男はハンドバッグから、あるものを取り出しました。「これはなんだ?」「わたしのコンパクトよ」 男は微笑み、コンパクトをひっくり返して底をねじ開けると、中には信管の付いたちっちゃな筒がありました。それは細かい銅色の線に覆われた、丸い板状でした。「この装置は、百マイル離れていても我々がキャッチできる信号を送るのだ。同じような装置が車の下にも隠されて...
ゴルの虜囚 35 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン4. 奴隷のカプセル(5) わたしを追ってきた小さいほうの黒っぽい円盤から、男が一人近づいてきました。「時間がないぞ」 背の高い男はうなずきましたが、慌てた様子も急ぐ様子もありません。 注意深くわたしを見て、「まっすぐ立て」と急かすふうでもなく言いました。 わたしはまっすぐ立とうとしましたが、腕は衝撃で麻痺したままで、指も動かせません。 背の高い男は、枝で打って切れて血の出ているわたしのおなかに触ってから、頭のほうに手を上げて、切れた頬を見て言いました。「我々には喜ばしくないな」わたしは何も言いませんでした。「膏薬を持って来い」男が言いました。わたしはまた何も言いませんでした。 軟膏が持ってこられ、二つの傷に男が軟膏を塗りました。匂いはしません。驚いたことに、たちまちに吸収されたようでした。「もっと気をつけたまえ」わたしはやはり、何も言いませんでした。「自分でしる...
ゴルの虜囚 34 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン4. 奴隷のカプセル(4) わたしは悲鳴を上げ、体の向きを変えて走ろうとしました。男がわたしを掴んだので、ハンドバッグから肉切り包丁をもぎ取り、荒々しく切り付けました。男は痛みに悲鳴を上げ、切れて血の出た袖を押さえました。わたしはよろめいたけれど、走ろうとして立ち上がりました。しかし男たちがわたしの周りを取り囲んでいます。包丁を振り上げて狂ったように攻撃しました。すると、手も手首も腕もすべてが、信じられないくらい麻痺する何かの衝撃を感じ、包丁が手から落ちました。腕が痛んでゆっくりと下がりました。指を動かすこともできません。痛みにうめき声を上げました。一人が包丁を拾い、別の男がわたしの腕を取り、背の高い男の前に突き出しました。わたしはうずくまって背の高い男を見上げ、涙を浮かべてすすり泣いていました。 背の高い男は、小さな道具をジャケットのポケットに戻しました。小さな...
ゴルの虜囚 33 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン4. 奴隷のカプセル(3) 他の男たちが、ハッチの開いた大きい船の近くに停めたトラックから、若干大きめの四角い箱を、丁寧にでもなく運び始めました。 わたしは半開きになったハンドバッグを、右手に掴んでいました。吐きそうだわ。 背の高い男がわたしの左手を取り、腕時計を外しました。「これはおまえには必要なくなる」そう言って、別の男に腕時計を手渡しました。 5時42分。 男たちがトラックの荷物を降ろし、船の開いたハッチの近くに置いた大きな木箱の脇の留め金を外し始めました。 恐怖に引きつってその光景を見ました。 それぞれの箱は、紐と留め金で厳重に締められていて、中に輪が付いていて、女性が一人ずつ入っていました。それぞれが服を脱がされ、それぞれが意識を失い、それぞれがさるぐつわをされ、それぞれが首輪をされていました。 男たちは女性のさるぐつわと首輪を外して解放してから、鉄の足...
ゴルの虜囚 32 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン4. 奴隷のカプセル(2)「あんたたち誰なの?何なのこれは?」わたしが囁くと、「離してやれ」黒いチュニックの男が言い、わたしを掴んでいる男が手を離しました。わたしは男たちの間に立っていました。今度は空き地のもう一方に、トラックがあるのが見えました。いろんな大きさの箱がトラックから運び出され、船に積み込まれていました。「首輪は気に入ったか?」黒いチュニックの男が愉快そうに尋ねてきたので、思わず手を自分の首にやってしまいました。 男はわたしの後ろに踏み出し、黒いベア・ミドリフのブラウスの上のボタンを引きちぎりました。小さな鍵が、厳重に掛けられた小さな鍵穴に差し込まれるのがわかり、首輪がぱちんと外れました。「間違いなく、別のをされるがな」男が言い、首輪の鍵を外した男に首輪を手渡しました。 男はわたしをじっと見ていました。 わたしはまだハンドバッグを掴んでいました。「離し...
ゴルの虜囚 31 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン4. 奴隷のカプセル(1) わたしを掴んでいる男が、立っていた場所から空き地の一方に導きました。別の男が一緒に来て、残りの男たちもそうしました。 黄色い光がぱっと消えて、黒っぽい円形のものが空き地の草の上に、静かに着陸しました。 まだ暗いけれど、朝までもうすぐのはずです。 光の一つに照らされた。円盤の上部のハッチが開き、男が一人這い出てきました。その男は黒いチュニックを着ていました。空き地にいる他の男たちは、ありきたりの服装をしていました。遠くにあった光が、徐々に明度を増してゆきました。 わたしは息をのみました。 空き地の中央に大きくて黒っぽい姿のものがありました。デザインや外見は小さい方と特に違わないけれど、もっと大きいものです。直径が三十フィート、厚さは七・八フィートくらいだと思います。草の上に停まっていました。黒い金属でできていて、さまざまな舷窓と、ハッチの...
ゴルの虜囚 30 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(21) 自分がハンドバッグを握りしめていることに気づきました。車から走り出たときから、とにかく本能的に掴んでいたのです。ハンドバッグの中には、家を出る前に投げ込んだ、お金とジュエリーと肉切り包丁が入っています。体の向きを変え、暗い木々の間をがむしゃらに走りました。サンダルは脱げ、足は傷ついて切れ、ブラウスが破けました。枝が服と髪に引っかかり、鞭のようにおなかを打ち、痛くて悲鳴を上げました。別の枝が刺さり、頬がヒリヒリしました。逃げている間いつも近くを光が照らしたていたけれど、わたしを捕らえてはいません。光から逃走しても、藪と木をばらばらに引き裂いて押し込んできます。何度も照明の淵がわたしの上を照らしそうになりましたが、素通りしたり、わたしがかわしてはまた走りました。木々の間をつまずきながら、足からは血が流れ、息も絶え絶えでした。手は右手にハンドバッグ...
ゴルの虜囚 29 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(20) マセラティが大きな石にぶつかり、エンジンが止まってしまいました。荒々しく、もう一度かけようとしましたが、惨めな音がして、そしてもう一度音がしました。イグニッションキーはただ無意味に、何度もカチッと音を立てるだけ。突然黄色い光に覆われたので、叫び声を上げました。それがわたしの上に停止していました。車を捨て、暗闇の中に逃げ出しました。 光が辺りを動きましたが、わたしを捕らえてはいません。 わたしは林に到達しました。驚いたことに、林の中から、円盤の形をした物がマセラティの上に浮いているのが見えました。 青みを帯びた光のようなものが、刻々とその姿態から放たれました。 マセラティがその青っぽい光の中で小刻みに震えると、恐ろしくも、マセラティが消えてしまいました。 わたしは木に背をもたれて立ち、手を口に当てていました。 青っぽい光が消え、再び黄色い光に切...
ゴルの虜囚 28 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(19) ふと衝動的に、ハイウェーから通じている、何十もの小さな脇道のうちの一つに曲がって降りました。 この道を選ぶなんて知りようがないはずです。 追っ手は見あたりません。 息をするのが楽になってきました。 アクセルを踏み込む足を緩めました。 バックミラーをちらっと見てから、振り向きました。車は一台もいないようでしたが、紛れもなく後ろには何かがあります。 瞬間に唾も飲み込めなくなり、口の乾きを感じました。 五、六百ヤードほど後ろに、それが妙にゆっくりと動いていました。ライトが一つ付いているようでした。そしてそのライトは、下にある道路を照らしているようで、黄色い明かりの池が進行方向に動いていました。それが近づいてきたので、悲鳴を上げました。それは音もなく動いていて、モーターの音も走る音もしません。円形で、黒くて、丸底で、小さくて、たぶん直径は七、八フィー...
ゴルの虜囚 27 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(18) 窓から這い出ました。小さなスーツケースはバンガローに置いてきましたが、ハンドバッグは大事なので持ってきました。15,000ドルとジュエリーが入っています。一番大事なのは、車の鍵です。 急いで車に乗り込みました。誰にも邪魔されないうちにエンジンをかけ、ギアを入れて加速しなければなりません。エンジンはもう暖まっているから、すぐに発車できるはずです。 うなりを上げほとばしり、マセラティにぱっと命が灯り、石を蹴散らし後輪から土煙をあげて、バンガローの角を飛ばして走りました。 ハイウェーの入り口で急ブレーキを踏んでから、舗装された道の分かれ目を急発進すると、タイヤの音が響き、タイヤの焼けた匂いがしました。ハイウェーを、轟音を立てて進みました。何も見えません。車のライトを点けました。何台か近づいては通り越して行きました。 後ろには何もないようでした。 わ...
ゴルの虜囚 26 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(17) バンガローのドアは開けられていました。わたしは鍵を閉めていたのに。でも鍵は開けられ、スライド錠まで抜かれていました。ドアに駆けて行きまた鍵を閉め、体で支え、すすり泣き始めました。 ヒステリックに服のところに走って、服を着ました。 時間があるかもしれない。あいつらはもう立ち去ったかもしれない。あいつらがすぐそこで待っているかもしれない。わからない。 車のキーを探してハンドバッグの中を手探りしました。 ドアへ走りました。 でも怖くなり、ドアをさわるのが心配になりました。すぐそこで待っているかもしれないわ。 バンガローの奥に移動して明かりを消し、恐怖に打ち震えて闇の中で立っていました。バンガローの後ろの窓のカーテンを引き寄せると、窓の鍵はかかっていました。鍵をはずし、安心したことに、音を立てずに窓は上に開きました。周囲を眺めると、誰も見えるところに...
ゴルの虜囚 25 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(16) シャワールームに入り、そのうちに歌っていました。 髪にタオルを巻いて乾かすと、疲れていたけれど生き返り、とてもハッピーな気持ちでお風呂からあがりました。 ベッドのシーツを折り返しました。 わたしは無事よ。 シャワーの支度をしたときに、ハンドバッグに滑り込ませた腕時計を出して見ました。4時45分。腕時計をハンドバッグに戻し、照明の小さな鎖を引こうとして手を伸ばしました。 その時見えたのです。部屋の向こうの鏡が。鏡の足下に、キャップが開いたわたしの口紅が転がっていました。シャワーを浴びている間にハンドバッグから取り出されたのです。鏡の表面には口紅で書かれた、またあのしるし。同じしるし。流れるようで優美な、わたしの太ももについているしるし。 電話を掴むと、通じていません。*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:**・...
ゴルの虜囚 24 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(15) いらいらして首の金属の輪を調べました。輪に刻まれた文字はもちろん読めません。文字なのかさえ判別できないし、単に流れるような模様かもしれません。でも 間隔の取り方や造形が、そうではないと物語っています。錠は小さいけれど、頑丈で、輪はぴったりとフィットしていました。 鏡を見ていると、ある考えが頭をよぎりました。これもあのしるしみたいに、魅力的じゃないこともないわ。わたしのしなやかさをいちだんと引き立てています。でも取り外すこと はできませんでした。刹那的に、誰かの虜囚として、持ち物として所有されているのではないかと、救いようのない気持ちになりました。一瞬の空想が胸をかすめました。こんな首輪をはめられ、こんなしるしをつけられ、裸で異邦の男の腕の中にいる。体が震えました。こんな気持ちになったことはありません。 鏡から目をそらしました。 明日この金属の...
ゴルの虜囚 23 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(14) すぐにマセラティを裏に駐車していたバンガローを一晩借りました。 荷物をバンガローに入れ、ドアの鍵を閉めました。疲れていたけれど、心の中で歌いました。自分がどんなにうまくやったかが、すごく嬉しくて。ベッドに入りたい誘惑に駆られましたが、汗をかいて汚れていたし、元々シャワーを浴びずに寝るなんて許せない気質でした。それに、洗い流したかったから。 バスルームで、太もものしるしを確かめました。ものすごく頭に来ました。でも激怒しつつも、この流れるような、優美な尊大な物に自分が救いがたく囚われていると思いました。拳を握りしめました。傲慢が、わたしの体に刻まれています。この、傲慢さ!傲慢がわたしにしるしをつけたんだわ。それなのに、美しい。鏡で自分を見て、しるしをじっと見ました。多分そうだわ。このしるしはどういうわけか、尊大に、望もうが望むまいが、わたしの美しさを信じられないほど高めています。すごく腹が立ちました。...
ゴルの虜囚 22 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(13) 朝の4時10分頃。 道路から奥まったところにある、バンガローの並ぶ小さなモーテルに入りました。道路から見えない、バンガローの一つの後ろに車を止めました。わたしがここで止まるのは、誰にも予測できないことです。バンガローの近くのハイウェーの北に、レストランがあって、開いていました。お客さんはほとんど居ません。レストランの赤いネオンライトが暑く暗い夜に、ぼんやり灯っていました。一日中何も食べていないので、腹ぺこです。レストランに入り、道路から見えない仕切り席に腰を下ろしました。 「カウンターにどうぞ」 店に一人だけのボーイが言いました。 「メニューちょうだい」 味気ないパンのコールド・ローストビーフのサンドウィッチ二つと、午後から残っていたパイ一切れを食べ、小さい紙コップ入りのココアを飲みました。 こんな時でなければ胸焼けしたでしょうが、今夜は力がわいてきました。...
ゴルの虜囚 21 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(12) 45分以上は、リードを延ばしたり縮められたりしながら、追っ手より先を疾走しました。一度、相手が40ヤード以内に居たとき、側道の砂利道に振り切って煽り、リードを1ヤードずつ伸ばしました。 やつらの追跡にゾクゾクしました。かわしてやるわ! 遂にひどく曲がりくねった道で200ヤード以上引き離し、ヘッドライトを消して林の中に入りました。この道路からの脇道がたくさんあり、曲がり道もたくさんあります。あいつらは当然わたしがどれかの道を行ったと思うでしょう。 ライトを消したマセラティの中で、心臓をドキドキさせて座っていました。 ほんの数秒のうちに尾行してきていた車は疾走して通りすぎ、カーブに滑り込んで行きました。 30秒くらい待ってから、道に戻りました。数分間はライトを消して走り、道路の黄色いセンターラインを月明かりで追いました。もっと交通量の多い舗装され...
ゴルの虜囚 20 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(11) 暑い夜だったけれど、勢いよく流れてゆく空気に髪がなびき、生き返った気持ちになりました。 うまくやったわ。 脱出したのよ! 警察官の前を通ったので、止まるつもりでいました。助けてくれるかもしれない。守ってくれるかもしれないわ。 でもどうかしら?あいつらは警察の制服を着ていたもの。あの警察官はわたしのことを精神異常で頭がおかしいと思って、この街に拘留するかもしれないわ。あいつらがいて待ち構えてるかもしれないじゃない。何者かも知らないし、目的もはっきりわからないのよ。あいつらはどこにいてもおかしくないわ。今は逃げなくちゃ。あいつらから、逃げるの! 外の空気を吸うと元気がわいてきました。脱出したわ!車の流れを遠慮なくさっと縫うように走ったので、他の車はしばしば急ブレーキをかけねばならず、クラクションを鳴らしました。わたしは頭を後ろに傾けて笑いました。 すぐに街を出て、ジョージ・ワシントン橋を渡り高速道路を北に向かいました。数分でコネティカットに入りました。 運転しながら腕時計を滑らせました。 その時、午前1時46分。 心の中で歌を歌いました。 わたしはまたエリノア・ブリントンに戻ったのよ。 この高速道路をたどらず、交通量の少ない道を行った方が良いかもしれないと思いつきました。 高速道路を降りたのが、午前2時7分。 車が一台後に続いてきていました。気にしていませんでしたが、四回ほど迂回してもまだついてきます。 不意に怖くなってきて、スピードを上げました。その車もスピードを上げました。 苦悶の叫び声をあげました。わたしはもうエリノア・ブリントンじゃないんだわ。常に自制心があったわたし、お金持ちだったわたし、洗練されたわたし、あれほど極上の品と知性があったわたし。今はただのおびえた小娘に過ぎないんだわ。身に覚えのないことで逃げてる、うろたえて混乱した小娘。太ももに印が、首に鍵のかかった金属の輪がぴったりと付いてるんだわ。 違う。心の中で叫びました。違うわ。わたしはエリノア・ブリントンのはずよ!わたしがエリノア・ブリントンよ! ふと、わたしは冷静に、速く、効率的に、鮮やかに運転し始めました。あの人たちが追ってくる気なら、もうやってるはずだわ。このちょろいゲームで、エリノア・ブリントンを見つけてないんだわ!あの人たちが何だか知らないけど、エリノアはもっと強敵ってことよ。このエリノア・ブリントンだもの。リッチですばらしいエリノア・ブリントンなんだから!*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:**・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*訳者の言い訳と解説 おかげさまで連載20回目となりました。こんなつたない翻訳でも読んでくれてるみんな、ありがとう! さて、今回はエリノアが自分をお金持ちとか洗練されてるとか言っているところは、one,...
ゴルの虜囚 19 【CAPTIVE OF GOR】

→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(10) アパートの駐車場に入りました。 ハンドバッグから車のキーを見つけて、大急ぎで、にこやかに係員に渡しました。「どうかしたんですか、ブリントンさん?」「ううん、なんでもないの」それでもわたしを見ているようでした。「急いでちょうだい!」係員に頼みました。彼はさっと帽子に手をやり、むこうに行きました。待っている時間は何年もに感じて、心臓の鼓動を数えていました。完璧にチューンナップされたエンジンの音が小さく聞こえ、特注のマセラティがカーブをさっと曲がってきて、係員が降りてきました。 紙幣を握らせました。「ありがとうございます」 係員はうやうやしくも、気遣わしげにしていました。彼は帽子に手をやり、ドアを開けてくれました。 わたしは顔を赤らめて、スーツケースとハンドバッグを車の中に投げ込み、係員を退けました。 運転席に座ると、係員がドアを閉めてくれました。 彼はこちらにかがみこんで、「大丈夫ですか?ブリントンさん」と訊ねてきました。「ええ!大丈夫!」車のギアを入れて発進するとタイヤの甲高い音だけがして、十フィートほど横滑りしました。係員はスイッチで駐車場のシャッターを上げてくれ、わたしは道路に走り出しました。熱い八月の夜の中へ。*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:**・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*訳者の言い訳と解説 チップは"I...
ゴルの虜囚 18 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(9) パイプをくわえた男が、新聞の上からこちらを見上げました。あいつらの一味?心臓が止まりそうでした。男は新聞に目を戻しました。アパートの駐車場には、ロビーを通らずに行こう。通りから駐車場に入ろう。 わたしが出て行くのにあわせ、ドアマンが自分の帽子に手をやったので、微笑を返しました。 外の道路に出ると、どんなに暑い夜か実感しました。 ふとブラウスの襟に手を触れると、下から金属の輪の感触がしました。 男が通りすがりにこちらを見ました。 知ってるの?わたしの首に金属の輪が付いているって、わかったの? バカバカしい。身震いして首をふりました。 頭を後ろに傾け、アパートの駐車場の入り口に向かう道路の歩道を、大急ぎで下って行きました。 暑い夜でした。とても、暑い。 男がわたしが歩いて行くのをじろじろと見るので、急いで通り過ぎました。 数フィート行って振り返ると、まだ見ていました。 追い払おうとして、冷たく蔑んだように一瞥をくれてやりました。 でも男は目をそらさなくて、怖くなりました。わたしは顔を背けて急いで立ち去りました。なんで追い払えなかったの?なんであの男は目をそらさないの?なんで顔を背けないの?なんで恥ずかしそうな顔して、ばつが悪そうに、急いで顔をあっちに向けないわけ?あの男はそうしなかったわ。ずっとわたしを見てたわ。太ももにしるしがあるって知ってるの?感づいたの?あのしるしが、今までのわたしと何か微妙に違う人間にしてしまったの?あのしるしが、この世界の女とわたしを隔ててしまったの?わたしはもう男を追い払うことができないの?男を追い払うことができないって、どういうこと?この小さいしるしがわたしをどうしたの?突然自分が無力に感じて、なんだか突然、生まれて初めて自分は傷つきやすい、本質的には女なんだって感じました。よろめいて歩きました。*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:**・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*訳者の言い訳と解説最後、「よろめいて歩きました。」I...
ゴルの虜囚 17 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(8) 割れたドアを見ると、怖くなりました。 壁掛け時計は、0時40分。 玄関を通って行くのが不安になりました。包丁のことを思い出し、寝室に駆け戻って包丁を掴んでハンドバッグに押し込みました。びくびくしてパティオのテラスに走っていくと、部屋を出るのに使ったシーツで作ったロープは取り外されていました。また寝室に走って行くと、シーツはほどかれて洗濯物のように一箇所にまとめてありました。鏡を見て、立ち止まり、首の金属の輪を隠すため、黒いブラウスの襟のボタンを上まで閉めました。鏡に口紅で描かれたしるしがまた見えました。ハンドバッグと小さなスーツケースを掴み、壊れたドアを通って逃げました。ドアの外のホールにある、小さな専用エレベーターの前で立ち止まりました。 腕時計を取りに家の中に駆け戻りました。 真夜中の、0時42分。バッグから出した鍵で、エレベーターの鍵を開け、共用エレベーターの並ぶ下のホールに降りて行きました。下行きのボタンを全部押しました。エレベーターの上の階数の表示板を見ると、二基昇って来ていて、一基は七階に、もう一基は九階にいました。この二基は呼べなかったはずなのに!唸り声をあげました。振り返って階段のほうに走り、階段の一番上で止まりました。鉄で補強されただだっ広い階段の上にいると、ずっと下から男が二人登ってくる音が、通路にうつろに響いてきました。 エレベーターに戻りました。 一基がわたしのいる二十四階に止まりました。壁に背中を押し付けて立っていました。 男がひとりと、その妻が歩み出てきたので、息をのんでやり過ごしました。二人は怪訝そうにこちらをみていましたが、メインフロアへのボタンを押しました。 エレベーターのドアがゆっくりと閉じると、隣のエレベーターのドアが開く音が聞こえました。ドアの隙間から、警察の制服を着た二人の男の背中が見えました。 のろのろと、のろのろと、エレベーターは下降していきました。エレベーターが四階で止まりました。奥に立っていると、カップルが三組とアタッシュケースを持った男が一人乗ってきました。メインフロアに着くとわたしはエレベーターを逃げるように降りましたが、すぐに自制心を取り戻し、自分を確認し辺りを見回しました。ロビーには何人か座っていて、何か読んだり人を待ったりしていました。何気なくわたしを見た人も何人かいました。 暑い夜でした。*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:**・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*訳者の言い訳と解説 ちょっとわかりにくい・・・よね。我ながらそう思う。いずれ修正すると思います(;´Д`)言い回しも気に入らないし。エリノアの部屋はペントハウスなので、自分専用エレベーターで一旦24階に降りて、共用エレベーターに乗り換えるみたいなんだな。 エレベーターの階数の表示板って、インジケーターって言うんですけど、原文では"dials"。「T4...
ゴルの虜囚 16 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(7) ベッドから飛び起きて、化粧台に走ると、気持ちが沈みました。もう0時30分じゃない!心臓がどきどきします。顔からさるぐつわをずり降ろし、口の中から大きなすっぱい詰め物の塊を取り出しました。すると突然具合が悪くなり、手足をついて崩れ落ち、じゅうたんの上に吐いてしまいました。頭を振ってから、首の周りに下ろしたさるぐつわを包丁で切りました。 もう一度頭を振りました。 真夜中の、0時35分。 衣裳部屋に駆け込み、最初に触った服を掴みました。皮色のベルボトムのパンツと、黒いボタン止めのベア・ミドリフのブラウス。 服を抱え、肩で息をしました。部屋の向こうを見ると、心臓が止まりそうでした。街の明かりでほの暗い部屋に映る影に、女が一人いました。裸で、何かを前に抱えていて、首の周りには金属の輪が付いていて、太ももには、しるし。「イヤ!」わたしたちは、一緒に叫びました。 息も絶え絶えで、めまいがしました。気持ちが悪いわ。部屋の向こうの姿身に映る自分に背を向けました。 パンツをはき、ブラウスをすばやく着て、サンダルを見つけました。 真夜中の、0時37分。 また衣裳部屋に戻り、小さなスーツケースを引っ張り出しました。三連チェストの足元に投げ出し、服を突っ込みバタンとスーツケースを締めました。 ハンドバッグを掴み上げ、スーツケースを持ってリヴィングに走りました。小さな油絵の向きをぐるりと変え、壁に埋め込まれた金庫のダイヤルを手探りしました。わたしはいつも15,000ドルほどと、ジュエリーを備えておいていました。開口部でお金とジュエリーをかき集め、ハンドバッグに突っ込みました。*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:**・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*訳者の言い訳と解説・ベルボトムってところに時代を感じますね。"CAPTIVE...
ゴルの虜囚 15 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(6)* * * * ベッドで目を覚ますと、まだ縛られたままでした。 もう暗くなっていて、開いたパティオとテラスへのドアの向こうから、街の夜道の喧騒が聞こえました。カーテンが開いていたので、何万もの四角い窓がきらめいているのが見えました。多くの窓には、静かに照明がついていました。 ベッドは汗でびしょ濡れでした。何時なのか見当もつかず、ただ夜としかわかりません。転がって化粧台の上の時計を見ようとしたけれど、顔は別のほうに向けられていました。縛(いまし)めに激しく抵抗しました。逃げなくては! でも貴重な数分間を無駄にあがいても、午後の早いうちから縛られていたのと、完璧に同じに縛られたままでした。 すると不意に、新たな汗が体に噴だしてきました。 包丁! 男たちが家に押し込んでくる前に、枕の下に包丁を投げ込んでいたのです。 縛られたまま横に転がり、歯で咥えて枕をどけました。安堵で気絶しそうでした。包丁は置いたところにありました。 サテンのシーツの上で包丁を動かそうと奮闘しました。歯を使ったり後頭部を使ったりして、手の縛(いまし)めのほうを向けました。痛いしイライラする作業だけれど、ちょっとずつ、ほんのちょっとずつ、包丁を下のほうに動かしました。一度包丁が床に落ちてしまい、心の中で苦悶の悲鳴をあげました。首のロープのせいでもう少しで窒息しそうになりながら、ベッドから半分外に体を滑らせ、足で包丁を探りました。足首は交差させられて、一緒にしっかりと結ばれていました。包丁を拾い上げるのは、ものすごく大変で、何度も何度も落としてしまいました。ベッドのヘッドボードにわたしを縛りつける、首の紐が忌々(いまいま)しかったです。涙が出ました。 ずっと下の通りから、消防車のサイレンの音と、夜の街の喧騒が聞こえました。さるぐつわと縛(いまし)めに、黙ってものすごく苦しみ抵抗しました。ついに、なんとかベッドの足元に包丁を取ることができました。足と体を使い、自分の下から引き寄せることができました。そしてやっと、縛られた手で包丁の柄を持ったのです!でも縛めには届かず、包丁は掴んだのに使うことができませんでした。 包丁の先をベッドの後ろに押し込み、自分の体で支えられたので、心の中で歓喜の叫びをあげました。紐を上下に動かし、包丁で切り始めました。汗ばんだ背中で包丁の柄を支えました。四回滑りましたが、その都度包丁の位置を元に戻し、またこの作業に必死で取り掛かりました。両手が自由になったので、包丁を手に取り、首と足首の紐を切り落としました。*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:**・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*訳者の言い訳と解説 NYの描写が出てくるときは、意図的にハードボイルドな雰囲気が出るように訳しているつもりです。でも、原文は別にそういうわけじゃないんだけどね^^;大好きな翻訳家の淡路瑛一が訳した、"カート・キャノン"シリーズへのオマージュです。 John...
ゴルの虜囚 14 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(5) 背の高いほうの男の声がドアの向こうから聞こえましたが、とても、遠くからに感じました。小さいほうの男がわたしのそばを離れ、背の高いほうの男が部屋に入ってきたので、彼のほうにか弱く顔を向けて見つめました。警察の制服を着ている二人の男は、小さいほうの男のあとへ続き家を出て行きました。家を出るときに頭からマスクを引き剥がしていましたが、顔は見ませんでした。背の高いほうの男はわたしを見下ろし、わたしはほとんど意識を失いながら、弱々しく男を見上げていました。 男は事務的に話しかけてきました。「我々は深夜になったら戻る」さるぐつわと薬に抗い、かすかにしゃべろうとしましたが、ただ眠くなりました。「お前の身に何が起こるか知りたいか?」男が訊ねるのでうなずきました。「好奇心はカジュラにふさわしくない」何を言っているのかわかりませんでした。「それを理由にぶたれること...
ゴルの虜囚 13 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(4)気が遠くなってゆきました。男はわたしに向かってかがみこみ、眉間にタバコの煙を吹きかけました。惨めに顔を背けると、「欲しいでしょう?」 わたしは首を振りました。イヤ、イヤ! 男はわたしのあごを掴んで彼のほうを向かせたので、また顔を突き合せなければなりませんでした。獰猛に見上げると、「君は何をされるのか知りませんよね、可愛いメス犬ちゃん」と男が言いました。「君は生まれて初めて、君があるべき姿になり、そしてそう扱われるのに値するだけの扱いをされるんですよ」この男が何を言っているのか、さっぱりわかりません。意識が薄れ始めました。男はもう一度ゆっくりじわじわとわたしのほうにかがみ、タバコの煙を眉間に吹きかけました。 目が沁みて、息も絶え絶えになりました。顔をつかまれたまま、背けることもできません。弱々しく縛(いまし)めに抵抗し、意識を保とうとしました。「そ...
ゴルの虜囚 12 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(3) 背の高いほうの男は部屋を出て行き、小さいほうの男はぐずぐず理由をつけて部屋に残りました。男はナイトテーブルへ行き、わたしのタバコを一本取り、パリ製の小さくて上品なマッチで火をつけました。 マッチを灰皿に放り込むと、今度は親しげにわたしに触ってきましたが、悲鳴は上げられませんでした。 身をくねらせると、男はにやりと笑いました。「君は冷たい女ではないな。鈍いふりをしていても、君は縛られた、ふしだらな女だ。新しい状況に順応したら、どんな風になるだろうね」何を言っているのか理解できませんでした。「君は見込みがある。今だってちゃんと反応したなら、それなりの値打ちがあると思うね」わたしは男を見上げました。「それにいずれは」男が言いました。「保証しよう。君は哀れっぽくお願いするさ。そのために腹ばいと懇願をする」 この人は頭がおかしいのだと思いました。 でもわたしは思い知ることになるのです。そうではないと。「そう。そのために君は腹ばいと懇願を学ぶんだよ、あばずれちゃん」男は狂っているわけではありませんでした。「首輪が似合っていますよ」わたしはもがきました。「君は首輪にふさわしい」わたしはむなしく縛(いまし)めを引っ張りましたが、無駄な努力でした。男を見上げると、「何か言いたいんだね。でも駄目だ。縛られてさるぐつわをされるのは気に入ったかな?」男が訊ねました。私はすすり泣いて抗議しました。男はまた手をあげ、こちらに手を伸ばしたので、わたしはぶんぶん頭を振りました。イヤ、イヤ、やめて!でも男はわたしには触れず、「おもしろいね。縛ってさるぐつわをすると、女にはてきめんだな」*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:**・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*・゜゚・*:.:*訳者の言い訳と解説 どう訳そうか一番悩んだところは、「君は冷たい女ではないな。鈍いふりをしていても、君は縛られた、ふしだらな女だ」"You...
ゴルの虜囚 11 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(2) 部屋は荒らされていませんでした。絵は壁にかけられたまま、東洋のじゅうたんも床にしかれたまま、何も手を付けられていません。 背を向けたほうの男が格下のようでした。その男がジャケットの内ポケットから革のケースを出し、万年筆のようなものを取り出しました。それをねじって開けたのを見てぎょっとしました。注射器です。 やめて!わたしはめちゃくちゃに首を振りました。 男はわたしの背中のウエストと腰の間に、針を刺しました。 痛かったけれど、具合が悪くなるような感じはありませんでした 男は注射器をケースに入れ、ジャケットの内ポケットに戻しました。 背が高いほうの男が自分の腕時計を見て、注射器を持っていた小さい男のほうに、今度は英語で話しました。背が高いほうの男にはアクセントに訛りがありましたが、どこの訛りかはわかりませんでした。「真夜中過ぎに戻る。今度はもっと楽...
ゴルの虜囚 10 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン3. 絹の紐(1) 身じろぎできず、頭を揺さぶりました。これは悪い夢だわ。「イヤ、イヤよ」そうつぶやいて身をよじり、目が覚めれば良いと思いました。「イヤ、イヤよ」 なんだか思うように動けないみたい。こんなの気に入らない。不愉快だわ。頭にくる。 すると突然目が覚めたので、叫び声を上げましたが声になりませんでした。 真っ直ぐに座ろうとしたけれど、危うく窒息しそうになり後ろに倒れてしまい、激しくもがきました。「女が目を覚ました」声がしました。マスクをした二人の男がベッドの裾に立ってこちらを見ていて、あと二人がリヴィングで話をしているのが聞こえました。 ベッドの裾に立っている二人は振り返って部屋を出て、リヴィングにいるほかの人たちのところへ行きました。 わたしは猛烈にもがきました。 両足首を一緒に軽い絹の紐で縛られ、両手首も同じように後ろ手に縛られていました。首も絹の紐を...
ゴルの虜囚 9 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン2. 首輪(4) 寝室に駆け込んでざっとあたりを見回し、慌ててリネン入れからシーツをまとめてわしづかみにしました。テラスに走り、桟の向こうを見ると気持ちが悪くなりましたが、15フィートほど下には小さなテラスがあります。この建物にはいくつも出っ張りがあり、そのひとつが下の階に通じています。太陽の光の中、灰とすすのかけらが降り注ぐ外の空気が目にしみました。シーツで作ったロープの端を、パティオとテラスを囲む腰の高さの壁の、小さな鉄の手すりにしっかり結び付け、もう片方を下の小さなテラスに注意深く降ろしました。あんなに怖かったことはないし、あんなに勇気がいることもないでしょう。 ドアがまた苛立ちを含んだ音でノックされはじめました。 何か着ようと寝室に戻ったとき、重いドアに体当たりする音が聞こえました。 パティオを見ました。シーツのロープを両手で降りなければならないので、ナイ...
ゴルの虜囚 8 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次 <反地球シリーズ> ゴルの虜囚 ジョン・ノーマン 2. 首輪(3) リヴィングから見えるキッチンに駆け込み、引き出しを開け、肉切り包丁を取り出しました。 包丁を手にし、荒々しく調理台の裏に回り込みましたが、何もありません。包丁を持つと少し不安が薄れ、リヴィングのテーブルの端の電話に向かいました。コードが切断されているのを見て、天を呪う気持ちでした。 家を調べるとドアには鍵がかかっているし、家にも、パティオにも、テラスにも誰もいませんでした。 心臓の鼓動は激しかったけれど、気持ちが高揚していました。 服を着て家を出て、警察に行くつもりで衣裳部屋に急ぎました。 ちょうど衣裳部屋まで行ったとき、力強くきびきびとドアがノックされたので、 包丁をぎゅっと握り締めて振り向きました。ノックは執拗に繰り返されています。...
ゴルの虜囚 7 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン2.首輪(2) 心臓が止まりそうでした。 部屋の中を見回すと、誰もいません。 ベッドの脇のナイトテーブルに置いてある電話のところまで、這って行きました。慎重に受話器を上げても、少しも音がしません。電話の発信音はせず、コードがだらりとぶら下がっていました。目に涙がこみ上げてきました。 リヴィングに電話がもう1台ありましたが、ドアの向こう側です。ドアを開けるのが怖くて、バスルームのほうをちらっと見ましたが、そっちも中に何があるかわかりません。怖いのは同じでした。 小型のリヴォルヴァーを持っていましたが、撃ったことはありません。だだそのことだけを考え、跳ね起きて部屋の脇にある三連チェストに飛びつきました。引き出しの中のスカーフとスリップの下に手を突っ込むと、ハンドルの手ごたえがあったったので、歓喜の声を上げたのもつかのま、信じられない思いで銃を見ました。泣くこともうめく...
ゴルの虜囚 6 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン2.首輪(1) 鏡の前の厚いじゅうたんの上に、どのくらいの間倒れていたかわかりません。 カーテン越しに見える太陽の位置からすると、1時間以上でしょう。 両手をついて体を起こし、ひざまずいて鏡を覗き込みました。 頭を抱えて首を横に振り、狂ったように叫びました。 首に巻かれた輪をしかっかりつかみ、もぎ取ろうとしました。気を失っている間に首輪をはめられていたのです。 首の周りにぴったりとついた金属の輪は、優美にきらりと光っていました。 頭を働かせ、単純にうしろに手を回し留め金を外して首から取ろうとしました。手探りしても留め金はありません。首とほとんど隙間もなかったので、ゆっくり慎重に輪を回し、鏡を見て調べました。留め金はありません。ただ、しっかり錠のかけられた小さな鍵穴らしきところがあるだけでした。のどのところで鍵がかけられていたのです!輪には何か刻まれていましたが、知...
ゴルの虜囚 5 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン1. 焼印(5) 月曜日の午後に仕事があって、水曜日の朝にスタジオに報告することになっていたので、火曜日は仕事が休みでした。夜になる前に有色人種のメイドを帰し、水曜日の分まで料理を作りました。家で1人で読書をして、音楽を聴きたくて。 月曜日の深夜に眠りにつきました。 もう昼近くまで、裸で白いサテンのシーツにくるまって眠っていましたが、カーテンを通して差し込む太陽の光で目を覚まし、伸びをしました。暖かくて、けだるい、けだるい日。ベッドのそばのナイトテーブルにある灰皿に手を伸ばし、タバコに火をつけました。部屋にいつもと違う所はなく、ふわふわのコアラのぬいぐるみがベッドの足元に転がり、本は机の上に。ランプシェードは昨日と同じように少し傾き、化粧台の上には合わせなかった目覚まし時計。タバコは味がしなかったけど、吸いたいと思いました。シーツの上にもう一度横たわり、また伸びをしてから足をベッドのわきに下ろし、スリッパを履きました。シルクのガウンをはおり、タバコを灰皿に突っ込んで揉み消して、シャワーを浴びにバスルームに向かいました。 髪を結い上げて、ガウンを肌からすべり落とし、シャワールームのドアを開けて中に入りました。暖かいシャワーに、すぐにゆったりした気分を味わいました。良い日だわ。暖かくて、けだるい、けだるい日。 しばらく頭を傾け、目を閉じてたたずんでいると、暖かいお湯が体じゅうにしたたりました。せっけんを手に取り、体を洗い始めました。 せっけんを持つ指が左の太ももに触れたとき、はっとしました。何かがある。触れたことのない何かが。 左側に体を曲げ、左足を真っ直ぐに伸ばしました。 突然目の前が真っ暗になり、息もできないまま、恐る恐る太ももを見ました。 痛みは感じません。 でも昨日の夜まではなかったわ! ...
ゴルの虜囚 4 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン1. 焼印(4) 数日後、希望どおり2つのモデルエージェンシーで、ほんの形式的な面接を受けました。疑いなくモデルにふさわしい、きれいな女性が大勢いました。数千万の人口で、美人を見つけること自体は難しくはありません。だからこのような競争社会では、特に未経験者は抜きん出た美しさや魅力、身のこなしで最初のチャンスが決まるのです。わたしの場合そうでした。もちろん、実力を伴って成功したと思っています。もっとも、その必要はなかったのですけれど。 数週間も続けられなかったけれど、モデルとしてのキャリアは楽しかったです。服を楽しみ、きれいに着こなしました。つらいときも疲れているときも、喜んでポーズを取りました。カメラマンや芸術家はぶっきらぼうなときもあるけれど、知性的でウィットに富んでいて、とてもプロフェッショナルです。ある人は一度わたしをビッチと呼んだので、笑ってしまいました。...
ゴルの虜囚 3 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン1. 焼印(3) 父はシカゴで不動産で財産を作りました。わたしが知る限り仕事だけを気にかける人で、キスをしてもらった覚えがありません。わたしの前で母に触れたことがあるのか、母が父に触れたことがあるのかも、思い出せません。父はお金儲けにも興味がなかったはずです。事実、どんなに他の人より稼いでも、もっと裕福な誰かがいるのです。父は幸せじゃなくて、追い立てられているような人でした。 母は海岸に広大な所有地を持つシカゴの裕福な家の出身です。家でパーティーをたびたび開いていました。父は母がいちばん値打ちのある財産だと一度言ったことがあります。褒めたつもりでしょう。母はきれいな人でした。飼っていたプードルを、靴をかじったからと毒で殺してしまいました。そのときわたしは7歳で、ひどく泣きました。わたしに懐いていたのに。卒業式に父も母も来てくれず、それが人生で2回目に泣いたときです...
ゴルの虜囚 2 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン1. 焼印(2) ある学生が春に学校を辞めました。もったいないと思うけれど、彼女はそのほうが良いとわかっていたのでしょう。わたしはお金持ちでしたから友達を作るのは難しくなかったし、とても人気がありました。でも話ができた人をひとりも思い出せません。休日はヨーロッパで過ごすほうがマシでした。 上等な服を着る余裕もあったので、そうしていました。髪型も思いどおり、いっけん無造作なようでいちばん魅力的に見えるようにしていました。小さなリボン、アクセサリーの色、上品な色合いの高級な口紅、スカートの縫い目、高級な革の外国製のベルトと調和の取れた靴、安物はありません。期限の過ぎたレポートの提出日延長をお願いするときは、すり減ったローファー、ブルージーンズにスウェットシャツ、髪にリボンを身に着けました。そんなときには、タイプライターのインクのしみを頬と指にちょっと付けて。いくらでも...
ゴルの虜囚 1 【CAPTIVE OF GOR】
→ 読む前の注意 → 目次<反地球シリーズ>ゴルの虜囚ジョン・ノーマン1. 焼印(1) この手記は、わたしのご主人様の命令で書いたものです。ご主人様はカル港のボスク。偉大な商人で、かつては戦士だったのではないかと思います。 わたしの名はエリノア・ブリントン、でした。独立して優雅に暮らしていました。 わからないことがたくさんあります。この体験談を通して、みなさんにどういうことなのかわかっていただきたいのです。この話は珍しくも不思議でもない、起こりうることだと思います。 地球の基準なら、わたしはとても美人でしょう。でもこの世界では金貨15枚の女です。きれいなほうだけれど、はるかにしのぐとびきりの美女が大勢いて、ただうらやむばかりです。 わたしはボスク屋敷の炊事場用に買われました。訓練は、この世界と地球との間の奴隷の貿易ルートを持つ商人に受けました。商品の中でもとりわけ女は、捕獲されこの奇妙な世界の市場に連れて来られるのです。もし美人で有望なら、あなたにもそういうことが起こるかもしれません。 この世界の人はやりたいならきっとやるでしょう。 それでも、男へのご褒美にこの世界に連れて来られるよりも辛い運命が、女の身に降りかかることがあるかもしれないと思います。 ...
ゴルの虜囚 目次 【CAPTIVE OF GOR】
第1章. 焼印 ゴルの虜囚 1 【CAPTIVE OF GOR】 焼印(1) ゴルの虜囚 2 【CAPTIVE OF GOR】 焼印(2) ゴルの虜囚 3 【CAPTIVE OF GOR】 焼印(3) ゴルの虜囚 4 【CAPTIVE OF GOR】 焼印(4) ゴルの虜囚 5 【CAPTIVE OF GOR】 焼印(5)第2章. 首輪 ゴルの虜囚 6 【CAPTIVE OF GOR】 首輪(1) ゴルの虜囚 7 【CAPTIVE OF GOR】 首輪(2) ゴルの虜囚 8 【CAPTIVE OF GOR】 首輪(3) ゴルの虜囚 9 【CAPTIVE OF GOR】 首輪(4)第3章. 絹の紐 ゴルの虜囚 10 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(1) ゴルの虜囚 11 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(2) ゴルの虜囚 12 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(3) ゴルの虜囚 13 【CAPTIVE OF GOR】 絹の紐(4) ゴルの虜囚...
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